ターゲットであるシェゼルというダークエルフのヴァンパイアが住む土地は、人間とヴァンパイアの共存地区の近くにあった。シェゼルは、好んで共存地区に住む人間を襲って殺す。 そうすることで、人間とヴァンパイアが対立することを喜んでいる、厄介な相手だった。 「風よ切り裂け、ウィンドエッジ!!」 ティエリアが使った精霊魔法は、血の渦となったシェゼルを切り裂く。 すぐに、血の渦は元に戻る。 「お前は・・・・長の子だろう!どうして、こんなことをする!」 「どうして?殺したいからに決まってるだろうが!!」 ヴァンパイアと化したダークエルフは、褐色の肌と尖った耳をそのままに、尖った牙を追加して、背に真紅の翼をもっていた。 瞳の色も、真紅。 長の瞳は綺麗なアイスブルーであった。その子であれば、同じアイスブルーの瞳であろうが、もうヴァンパイアとして真紅にかわっていた。 血を求め、殺戮に快楽を生み出す、協会から殲滅対象となるヴァンパイアの行動そのまま。 「魔よ退け、マグヌールエクソシズム!!」 地面は、魔を焼き払う呪文で銀色の光の海となっていた。 「リエット・ルシエルドか・・・・死ななかったのか、くそ!」 シェゼルが眉を顰める。 毅然とした表情で美しく佇むハイプリートのホワイティーネイは、見た目とは反対の言葉を出す。 「うっせぇよこのびちびちうんこ!ギョウチュウが!たかが血を吸われたくらいで、俺が死ぬわけねーだろ!ハイプリーストなめんな!こっちには、創造神ルシエードがついてるんだよ!腐れ神でも信仰してれば聖職者だ!あーもうめんどくせーな!お前、五億リラ返せ!!」 「借金などしていない!!」 シェゼルが首を振る。 ロックオンが、ハイプリーストの借金の矛先がダークエルフのヴァンパイアにうつったことで、何気に嬉しそうにしている。 「お前金ためてるだろ?知ってんだぜ!六百万リラだっけ!」 「お前、聖職者のくせに、人の貯金を奪う気か!」 「うっせーんだよ!殲滅対象のヴァンパイアの貯金や私財は全部、ハンター協会いきだ。ちょろまかしてやるぜ!」 本気でちょろまかしそうだ。 「血の雨よ!奴らを殺せ!!」 鳥の羽のような形をした血の小さな武器が、いくつも雨のように降り注ぐ。 ロックオンは、ヘルブレスを吐いて、その血を蒸発させる。 ハイプリーストは、その攻撃をまともに受けてしまった。 「大丈夫ですか?」 ティエリアが振り返るが、真紅の血を流すハイプリーストの女性は、不適に笑った。 ロックオンの笑いにちょっと似ていた。 「ヒールサンクチュアリ!!」 見た事がある魔法だ。聖女マリナが得意としている、回復魔法。詠唱破棄している。流石は、ハイプリースト。 その傷はリエットを癒し、そしてシェゼルに向かっていく。 「ごああああああ!!」 神聖魔法は、ヴァンパイアに向かわせるとダメージを与えることになる。 真紅の翼を癒しの魔法で解かされて、シェゼルは地面に落ちる。 「ロックオン!」 「はいよ!」 ティエリアが、銀の短剣でヴァンパイアの手足を地面に縫いつけてから、ビームサーベルを取り出す。 それに、ロックオンは真紅の血液となって纏いつく。 「汝、滅びよ!!」 ティエリアは、太陽の光をビームサーベルに反射させると、もがいている敵の脳天からビームサーベルを振り下ろす。 敵は、真っ二つになった。 「ぐぎゃあああああああああああ!!」 断末魔の悲鳴を残して、シェゼルは灰となっていく。 さらさらと、この世界に灰となって崩れていく。 それを、リエットは哀しげに見つめていた。 「なぁ・・・バカだなぁ。人間と共存を選んでいれば、殺されることなんてなかったのに」 今まで何度も見てきた光景。 でも、彼女にとっては敵であっても同じヴァンパイア、同胞であることにはかわりないのだ。 ロックオンにとってもティエリアにとってもそれは同じ。でも、同胞だからと思っていては、ヴァンパイアハンターなんてやっていけない。 「せめて、神の賛美歌をやるよ。ホワイトオラトリオ・・・・」 複数の創造の女神であるアルテナを形作った白い虚像が、美しい賛美歌を歌う。 「あーあーあー、神は許されたもう。汝の魂を新しき道に導かん。神は汝を許したもう。神は汝の罪を洗い清めん。あーあーあーあー」 ロックオンが、一緒に賛美歌を歌う。 「ロックオン?」 「懐かしいな・・・・この歌、昔、ジブリエル、ティエリエルであったティエリア、お前がよく歌ってくれた」 「僕が?」 「そう。覚えてないだろうけどな」 「いえ・・・なんとなく、覚えています」 ティエリアは両手を広げて歌いだす。 「神は汝を光の道へと導かん。新たなる世界へと誘いたもう。神たちはいつでも汝の魂をみつめている。あーあーあーあー」 この世界に神は複数いる。創造神ルシエード、創造の女神アルテナが有名である。他にも、精霊神でもある太陽神ライフエルも有名だ。 ティエリアの美しい声が大地に響き渡る。 ロックオンは、ティエリアのかわりにカプセルをとりだして、灰をつめる。 「神は・・・・・どうして俺たち、ヴァンパイアを生み出したんだろうな?ネイ・・・・血の神よ。古代の人間が俺たちを創造した・・・・神じゃない。なぁ、なんでだろうな?本来、俺たちには信仰すべき神はいない。血が俺たちの絆。種族の全て。血の神であるお前は何を思って生きている?」 「俺は・・・・」 ロックオンは、歌い続けるティエリアの隣に寄り添って、傾きかけた太陽をみる。 「おれは、ただティエリアを愛したい。だから生きている。それだけさ」 NEXT |