世界が終わってもY「インフルエンザ」







ティエリアがインフルエンザにかかった。イノベイターは病気になりにくい特性を持っているが、同時に
病気にかかると違う症状を引き起こして対処に困るという難点があるため、リジェネが体質改善の特効薬を作ったのだ。
その結果、病気にかかっても普通の人間と同じような症状が出る。だが、それだけで終わればいいのだが、病気にかかりにくいという特性も消えてしまった。
ティエリアは、過去に過労のために熱を出したり倒れたりすることはあっても、そうそう大きな病気にかかったことは皆無だった。
一度、風邪をひいたくらいだった。その時は体温が、イノベイターの40度の死のラインまで近づいて、刹那が懸命に看病してなんとか乗り越えた。
とにもかくにも、ティエリアはインフルエンザにかかった。

「んー」
布団の中で、額に冷えピタシールを貼られて安静を命じられたティエリアは、ベッドの中で高熱にうなされながらぼうっとしていた。
すでにずっと眠っていたせいで、眠気はない。ニールがおかゆを作ってくれて、なんとかそれは食べたし、解熱剤も飲んだが、なかなかに熱が下がらない。今年の季節インフルエンザは熱が高く、また下がりにくいこということだった。
「ふにゃああ」
熱で溶けてしまいそうだ。
ジャボテンダーを抱きしめたまま、ティエリアはベッドから降りる。
毛布を頭から被って、ふらふらと壁伝いに歩いていく。顔は真っ赤だ。熱のせいだ。
「にゃあああ」
猫のような声を出して、ティエリアは仕事をしているニールの部屋の前にくると、バンと勢いよく扉をあけた。
「ティエリア?どうしたんだ。寝てなきゃだめだろう」
「ニールがいないからやーなの」
ニールに近づいて、ティリアはニールの腕の中に落ちる。
足元がふらついて、うまく歩けない。抱きしめられて、ティエリアは嬉しそうに笑顔を刻む。
「だっこ」
「へ?」
「だっこしてー」
いつものティエリアならありえない甘えよう。
ニールはどうしたものかと思ったが、相手は病人だ。素直にティエリアを抱き上げて、そのまま寝室にくると、ベッドに横たえて毛布と布団を被せる。
「いい子だから、大人しくしとけよ。安静なんだから。熱全然下がってないじゃないか」
冷えピタシールをはがして、額と額とをくっつけるが、ティエリアの熱は全く下がっていなかった。39度以上はあるだろう。朝はかったときは38度4分だったのに、熱があがってしまったらしい。
イノベイターの死ライン、40度という熱の特徴も、リジェネが開発した特効薬によって体質が改善され、40度の熱を出しても、それで死ぬ危険性はないが、
それでも高熱を出せばやはり人間と同じで体が弱る。
「ほっぺにちゅってして」
いつものティエリアも、ニールに甘えてくるが、ここまで大胆に甘えることはない。
「はいはい。だから、大人しく眠れよ」
ほっぺに希望通り、ニールはキスをしてティエリアの額に新しい冷えピタシールを貼ると、しばらく様子を見ていたが、ティエリアがまどろみはじめて目を瞑ったので、そのまま仕事を続けるために寝室を後にする。
 

ニールの仕事はテープライターで、月給は20万程度と少ないが、いつでもティエリアとそして同じ家に住むリジェネと一緒にいられるようにその仕事を選択した。ティエリアの年収は百億を軽くこえる。IQ180をいかして、常に最新のAIを開発し、特許権を次々ともらっていくせいであった。
大きな会社と携帯して開発することもあるが、仕事は自宅でやっていた。プログラミングを主としたものだ。無論、会社と携帯の場合、その会社に出社することもあるが、それはとても少なく、珍しいことだった。
いつでもニールといたいから、ティエリアもこの仕事を選んだのだ。
それ以外に、リジェネとティエリアは芸能人である。アークエンジェロスという名のユニットグループのメインボーカリストだった。雑誌の撮影依頼を受けたり、ネットを基盤とした活動をしているが、たまにライブも行うし、音楽番組への出演依頼も多い。ティエリアの天性の歌声と同じくリジェネの歌声は誰をも魅了して、
ビジュアル系バンドとして活躍しているはずなのだが、そのアルバムやCDの売れ行きは凄まじく、芸能関係での仕事での収入も年に10億はあるかもしれない。
ティエリアとリジェネのほかに、メンバーは四人。皆中性的な顔立ちの少年ばかりだ。
それが売りでもある。リジェネは、今日は雑誌の撮影で出かけている。
家に残ったのは、ティエリアとそしてニール。リジェネから、ティエリアの介護を頼まれたニールだが、ティエリアが大人しく寝ているせいで、ニールはずっと傍にいてもすることがないので仕事をしていた。
 




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