「ヴェーダ!!ああ、何故だヴェーダ!!」 ヴェーダとのリンクが途切れたティエリアは、情緒不安定になっていた。 ロックオンが傍にいても、終始ヴェーダと口にする。 「お前さんは・・・・これから、ヴェーダなしで歩いていくのさ。俺と同じように、一人の人間として」 「一人の・・・・人間として」 展望台で、星を見ながらロックオンが言った言葉は、深くティエリアの中に浸透していく。 人間として、歩いていく。 ロックオンと。他の仲間と。 「僕は、人間になれたかな?」 「ああ、もう立派な人間だ」 二人は、歩きだす。人間として、そしてガンダムマイスターとして。 ******************************* ティエリアを庇ったロックオンは、右目を失った。 そして、ショックのあまりティエリアは壊れた。自我が完全に崩壊したのだ。 「手の施しようがないの。処分するしか」 ミス・スメラギの言葉を、ロックオンは冷静に聞いていた。 量産型ティエリア。すでに、今のティエリアは二体目である。一度目に完全に壊れたティエリアは処分され、新しいティエリアがティエリア・アーデとなった。 「俺の愛がお前を壊した・・・・ごめんな、ティエリア」 機能を停止したティエリアの、石榴の瞳をロックオンはそっと閉じる。 ポタポタと、ティエリアの白皙の頬を、ロックオンの隻眼の涙が伝う。 「こんなに愛してるのに・・・・俺は、お前を守ってやれない。お前は壊れてしまう。なんでだ。なぁ、なんでだ!!」 もう、言葉も返してくれない、微笑んでもくれない人工アンドロイドとの愛の結末に、ロックオンは悔恨の涙を流し続けた。 ただ、傍にいれるだけでよかった。愛し合えれば。 でも、その愛がティエリアを壊していくのだ。ティエリアにとって、愛という感情は凶器。 受け入れられるようにプログラムされていないのだ。 凶器はティエリアの脳を傷つけ、記憶回路をショートさせる。 ロックオンが死んだと思った瞬間、ティエリアは記憶回路をショートさせ、壊れ、崩壊した。 愛し合うことが罪だというのか。 ティエリアは何もしていないのに。 人間ではないから、罰せられるというのか。 何故だ。何故、ティエリアだけが。 「罰は、俺にもきたよ、ティエリア。右目はもう再生させない」 動かないティエリアの体を抱いて何時間たっただろうか。 茫然自失状態のロックオンから、誰もティエリアの壊れた亡骸を取り上げることはできなかった。ロックオンは、ずっとずっと、ティエリアを抱きしめて。 「ティエリア、愛してるよ」 その愛は、まるで狂気。 愛し合えるはずの二人は、決して結ばれない。 報いは、ティエリアにもロックオンにも訪れた。 罰は下された。 ティエリアは壊れた。そして、ロックオンの利き目は失われた。 誰よりも美しく、無垢で繊細なティエリア。 あの笑顔は、もう二度と戻らない。 ロックオンは、決めた。もう二度と、ティエリアを愛さないと。 愛しているからこそ、愛さない。 ティエリアを壊さないために。 ティエリアが無事に存在できるように。愛しているからこそ愛さない。 「もう・・・・俺は、お前を愛さない。愛しているから、愛さない。お前は愛で壊れてしまう。だから・・・愛さない。ティエリア・・・愛してるよ。お前に愛を囁くのも、これが最後だ」 NEXT |