血と聖水\−U「神の涙」







「6代目・・・・前のロックオンは5代目だった」
「我は、お前から生まれる。姫王、お前の闇から」
ティエリアを照らす朝日。
その影が、ゆらりと蠢いた。
半透明だったロックオンは、その影の中に混じる。
そして、クリアな姿になったロックオンがティエリアを抱きしめていた。

「ネイ・・・・愛していたよ。ネイ」
神は、生まれてはじめて涙を零す。
神の涙。
それは奇跡を呼ぶ。

神の涙を受けたロックオンは、6代目ネイとして5代目ネイの記憶を受け継いでいなかったが、それを取り戻した。
「ネイ・・・・・ロックオン!!」
涙を流し続けるティエリアをしっかりと腕の中に抱いて、ロックオンはその額にキスをする。
「俺は、姫王、お前からうまれた六代目ネイであり、ロックオン・・・・そう、俺の名前はロックオン」

空に溶けていくアクラシエルは微笑んだ。
「さらばだ、ネイ」
「アクラ・・・・愛していたよ。確かに、かつては愛していた」
「その言葉だけで十分だ」
無と有の神アクラシエルは、世界に存在を維持できなくなり消えた。

刹那もリジェネも、泣いていた。
ロックオンを小突き回す。

「帰ろうか。俺たちのホームへ」

ロックオンが指差す世界。それは、ロックオンたちと作り出す物語。
ネイであるロックオンとティエリアと、刹那とリジェネたちで織り成す物語。

神の存在など、そこにはいらない。
世界の未来が滅びというのなら、その未来を自分たちで変えればいい。それだけのこと。
本来なら転生に数百年の時を要するネイの転生を、アクラシエルは時の進行をはやめ、神格をもつ魂をコアに捧げたことによって叶った。
そして、世界の時は逆流していた。
使徒たちが目覚める前の世界に。
使徒は使徒として覚醒することもなく、死者もいない世界だった。
数日を逆行したことに、ネイを除くティエリア、刹那、リジェネが驚いた。

「主、お帰りなのにゃ!」
フェンリルが、ティエリアをホームに出迎えてくれた。
「健康ランドにいきたいのにゃ!」
「僕もいきたい〜」
「アレルヤ、かってに家に入るな」
「だってロックオン、他に帰るとこないんだもの!」
しくしくと泣き真似をする、ネイの武器でもある神父アレルヤ。
アレルヤはすぐに教会に呼び出され、帰っていった。使徒として目覚めた記憶も、北の国で六万人を殺した事実も、逆行したこの世界にはない。

「なんだか、不思議ですね」
「んー?」
「あれだけ・・・命をかけてお互い殺しあってたのに、いつもと同じ時間を過ごせるなんて」
「なーに、それも俺とお前の愛だって」
「僕らもいるよ」
「俺もいる」
「みんなのお陰です」
ティエリアは天使のようだった。

ロックオンは、しばらくの間二人をホームに泊めることにした。
そして、刹那とリジェネが自分のホームに帰り、いつもの穏か時間に戻ったホームで、ネイはそっと神の空間に続く扉を開ける。



NEXT