皇帝メザーリアの命令により、リエット・ルシエルドの「フレア」に冠する記憶は抹消された。 それは、姉が生きていくために必要なこと。 「厳しいかもしれないが・・・・・私は姉上に生きてほしい。フレアに連れ去られたくない」 ティエリアの腕の中で泣く皇帝は、ブラッド帝国を支えているとは思えないほど幼かった。 「君のしたことは・・・間違っては、いないと思う。ホワイティーネイは、弱い種だから。種族を守るためにも、生きてもらうためにも、この方法が一番だと、僕も思う」 「私は・・・・姉上から、幸せだった時間まで奪ってしまった」 「泣かないで、メザーリア」 突然変異として生まれた姉は、ホワイティーネイだった。だからこそ、フレアに出会えた。でも、この種でなければもっと幸せな人生を謳歌していたのかもしれない。 「メザーリア。責任は俺にある。泣くな」 「ネイ様・・・・」 ロックオンは、詫びた。 フレアを、個体にできなかったことを。消したことを。 「いいえ、ネイ様・・・あなたの力をもってしても無理だったのなら、仕方ありません」 皇帝メザーリアは涙をふき取って、顔をあげる。 「本当はもっといてほしかったのですが・・・仕方ありません。このままではお違い落ち着かないでしょうから。飛行船を用意してあります。どうか、ご帰還を」 「ああ」 「ありがとう、メザーリア」 「にゃーのにゃ?」 パーティーを抜け出して、王宮を散歩して帰ってきたフェンリルは、しんみりした気分になった皆を不思議そうに、ティエリアの頭の上で首を傾げていた。 そして、そのまま数日滞在した後、ホームに帰還することとなった。 「なんだか・・・・哀しい結末でしたね」 「ああ・・・・・いくらあいつが男女とはいえ・・・なぁ。あれは厳しすぎる」 「うるぁ!!!誰が男女だこのチンカス!!」 「うご!」 踵落としをくらって、ロックオンは地面に沈没する。 「えっと・・・リエットさん?」 「なめんなって。記憶の抹消?そんなの、たとえ皇帝でも許さない。俺とフレアとの時間を奪うことは、誰にだってできない」 「リエット・・・お前、記憶消されてないのか」 「消されたふりしただけだ。夢を見たんだ。フレアのさ。フレアは、いつかこの世界にきっと生まれてくるって、俺に約束してくれたんだ。だから、俺はずっと待ってる。この命の灯火がつきる、その日まで」 彼女なら、本当に死ぬ間際まで待ち続けるだろう。 その言葉に、ロックオンもティエリアも救われた気分になった。胸にあった氷山が、ゆっくりと溶けていく。どうか、夢のとおり、フレアがもう一度この世界に生まれるようにと、二人とも願い祈った。 ティエリアはついには泣き出してしまった。 「おい、ティエリア、泣くなよ」 「あ、それ俺の台詞!!」 「ぼーっとしてると、この姫王も俺がもらっちまうぜ」 「それはお前でも許さねぇーー!!」 キシャアアアと牙を向き合って、威嚇しあう二人に、ティエリアは何故自分にフレアの姿が見えたのか、今になって分かった気がした。 フレアは、多分ティエリアに教えたかったんだ。 この世界にちゃんと存在していると。 リエットを愛しているとは言わなかったけれど、きっと言いたかったのだろう。 きっと。 「うるぁ!フェンリル切り!!」 フェンリルの後ろ足をもって、前足で爪をたてたフェンリルで、獅子姫はロックオンを引っ掻いていく。 「いてええええ!!」 「しくしく右に(_´Д`) アイーン 左に(´Д`_) アイーン 」 「あ、ウエマ」 「はあい」 リエットの護衛を担当する帝国騎士は、リエットがいじめすぎたせいで泣いて一度実家に帰ったが、戻ってきた。 「んでさー。俺ら、帝国でても・・・・することないんだわ。しばらくお前らのホームに泊めて」 「なんでだよ!!」 「はい、喜んで」 「喜んでだにゃー」 「右に(_´Д`) アイーン 左に(´Д`_) アイーン 」 「└(゚∀゚└)ハッスル!ハッスル!!(┘゚∀゚)┘ ハッスル!ハッスル!! 」 踊る帝国騎士に触発されて、ロックオンも踊りだす。 獅子姫とティエリアは、長いため息を零した。 「フレア。俺は、この命が尽きるまで、お前を待ってるから」 獅子姫は、広大なブラッド帝国を覆う血の結界フレアを見上げる。 「いつか、出会えるといいですね」 ティエリアは思う。ネイの血族であった自分は幸福なのだと。フレアのような存在もこの世界にはあるのだ。ティリアは願う。ネイの血族として同時に。 どうか、この獅子姫に未来あれ。ロックオンといつまで愛し合えるようにとも願いながら。 血と聖水フレア The End Presented by Masaya Touha ************************************ ティエリア外伝「ネイの血族」 ・・・・・・・・・・・・違う!違う( ´Д`) これリエット外伝。 そんなばかなあああ。 まぁ、ネイの血族であるティエリアを羨ましがった誰かが襲ってくるお話を書きたかったのですけど。 |