星の砂「愛の証をたてる」







「こないで・・・・」
ティエリアが、ロックオンから逃げ出した。
「どうしたんだ、ティエリア、ティエリア!?」
「いやなの、こないで、お願い、お願い・・・・」
ティエリアは走って、廊下を走り抜けてデッキに出ると、手に持っていたナイフを首につきつけた。
「今日も、痛いことするんでしょ?いやなの。痛いの嫌い・・・・僕のロックオンは、痛いのすき。でも、僕は嫌い・・・」
そう、ロックオンのマスターはロックのままだった。
それをドクター・モレノから知らされていたが、うかつだった。
自殺のストッパーが外れたのも知っている。いつ、こんな状況に陥るのか分からないのに、鋭いナイフをティエリアの目の届くところにおいていた。全部ロックオンのミスだ。
ロックオンは優しく微笑んで、両手を広げる。
「大丈夫、何も痛いことなんてしないよ」
「嘘。僕の右目、あなたがくりぬいた」
ティエリアの中で、ティエリアのロックオンであったロックと、本当のロックオンがごちゃ混ぜになって、一つになっていた。
「違う、俺はそんなこと」
「嘘。あなたは、そのエメラルド色の綺麗な瞳で笑って、フォークで僕の右目をつきさして・・・・とりだして、アルコールにつけてお酒にして、僕に飲ませた」
なんて、むごく酷いことをした男なのだろう。
一発の銃弾で殺さず、もっと痛めつけて殺すべきだった。
そう、ティエリアがうけた拷問のような虐待は、一人の男、ロックという名のアイリッシュ系の、どこかロックオンに似た色を持った男がしたことだ。
命乞いをした兵士たちが話したロックという男がティエリアにした仕打全てに、ロックオンはロックという男を一発の銃弾で殺してしまったことに後悔しまくった。もっと、ティエリアの痛みを分からせて殺すべきだった。

「しない。もう二度としない」
「嘘。そういって、あなたは僕を鞭打った」
「もう、お前を痛い目に合わせない。俺はロックオン・ストラトス。お前を愛し、お前を守る男だ」
「こないで」
ナイフを、ティエリアは自分の頚動脈にあてた。
「愛してる・・・・よ」
ロックオンは、ティエリアの目の前で、自分の右目をなんと、えぐりぬいたのだ。
「ほら・・・これで、おあいこ、な?」
大量の鮮血が噴出す。右目を血の海で彩りながらも、傷みで失神しそうになりながらも、ロックオンは優しく微笑んでいた。
「嘘・・・なんでそんなことするの」
「ティエリアが、痛がるから。俺も同じ痛い目にあわないと」
「うわああああああ!!」
ロックオンは、ナイフを放り出したティエリアに抱きしめられ、そのまま意識を失った。
「なんてことだ!自分で自分の目をくりぬくなんて、常軌を逸してる!」
ドクター・モレノはカンカンだった。
すぐに再生治療を受けたが、再生まで数日かかる。それまでティエリアと離れているなんて、できない。ロックオンは、再生治療を受けながらも、自分とティエリアの部屋に戻る。
戻ると、ティエリアが泣いて待っていた。
手には、包帯。
ナイフを手で握りしめて、あなたを傷つけた罰だと、ティエリアがはじめて帰還して、ロックオンのために自分から傷をつけた。
それは嬉しくもあり、哀しくもあった。
言葉でちゃんと伝わるのに。ティエリアは、傷をつけなければロックオンに伝わらないと思っている。
「右目・・・痛い?」
「大丈夫。再生治療受けてるし、痛み止め飲んでる」
ティエリアは、自分から服を脱いだ。
「ティエリア?そんなことしなくてもいいんだよ」
「抱いて」
「そんなことしなくても俺は、ティエリアを愛している」
「ティエリアのこと、抱けない?汚れてるから?」
「そうじゃない!!」
ああ、どうすればティエリアに伝わるのか。大切に、大切にしたいのに。
「抱いて。あなたが欲しい」
「ティエリア」
「抱いて。ロックオン。ロックオン・ストラトス。僕の、僕だけのロックオン」
その言葉に、ロックオンは気づけばティエリアをベッドに押し倒していた。
「抱くよ」
「本当に?」
「抱くよ。優しくするから」
「優しく・・・抱いて。上書き、して。あなたに、マスターを」
「するよ。上書き、何度でも。お前は汚れてなんていない。俺だけの天使だ。いつまでも美しい。ティエリア」
二人は、舌か絡むくらいのキスをする。二人分の体重を受けて、ベッドが軋んだ。

「オルゴール・・・鳴らして」
「いいよ」
星の砂時計のオルゴールの螺旋を回して、哀しげなメロディーが流れる。
そのメロディーに包まれて、二人は愛を確かめ合う。


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