「セレニア・・・・そこに、いるのか?」 既に時遅く、心臓を貫かれたフレイムは虫の息だ。 「まってろ、今ライフエルを召還して・・・」 「いいえ、ネイ様。どうか、フレイムをこのまま逝かせてあげてください」 「セレニア・・・・」 「私の最後のわがままです。どうか、フレイムをこのまま。フレイムは私の元にいきたがっている。だから、私はフレイムを止めなかった。フレイムも、私を求めている」 ティエリアから分離したセレニアは、教皇の一族に生まれたせいで特殊な力を持っていた。 魂だけ、一時この世界に蘇ったセレニアはティエリアの力でさらに姿を形どることに成功する。 「ロックオン・・・セレニアもフレイムも・・・・もう、二人は未来の世界で会う約束をしたんです。どうか、このまま」 ボロボロになったフレイムを、セレニアが抱きしめる。 「ああ・・・・セレニア。泣かないでくれ。愛している」 セレニアの涙が、フレイムの炎を消していく。 「私もよ、フレイム。私の元にきて。お腹の子は、月足らずで生まれ、死んでいないわ。私たちの愛の結晶は、帝国でエターナルの平民の下に養子に出しました。幸せに暮らしています」 「そうか・・・・もう、心残りは何もないよ、セレニア・・・俺の最愛の人」 フレイムは、それだけ言葉に出すと動かなくなった。瞳孔が開いていく。身を包んでいた炎が完全に消えた。 そして、ゆっくりとゆっくりと灰になっていく。 ティエリアはずっと泣いていた。 「ごめんなさい。フレイム、セレニア・・・ごめんなさい」 「謝るのは俺のほうだ。救ってやることができなかった」 「いいえ、ネイ様。私は十分に救われました。ネイ様の手で殺されたことにより、命の精霊神ライフエルが声をかけてくださりました。次は、人間として生まれるようにと。フレイムも、同じく。人間としてこの世界に生まれ、またであって愛し合うのです」 セレニアは美しかった。 そう、教皇アルテイジアであった頃も美しかったが、それよりも数倍美しい。 「のお・・・・ネイよ。我もこうして、時に気まぐれをおこす。といっても、我の気まぐれは多いか」 いつの間にか、召還されてもいないのに、ライフエルが草原に佇んでいた。美しい貴婦人は、灰となったフレイムから魂を取り出す。そして、同じく魂となって姿を消したセレニアの魂を、二つの魂を大事そうに胸に抱いて、 空へ放った。 二つの魂は、螺旋を描きながら光となって空の彼方に消えた。 「人間として、この世界で生まれるようにセレニアと約束した。フレイムの魂をとりにきた・・・・ネイ、神とて万能ではないのだ。そう気を落とすな」 「うるせ。とっとといっちまえ」 「本当にお主は素直ではないな。ではな、ネイ、ティエリア、それに我が友リジェネと刹那」 ライフエルは、精霊界に戻った。 空に待機していたフェンリルは、元の子猫戻ってひゅるるとロックオンの頭に降ってきた。 「猫キックだにゃ!」 キックがきまって、ロックオンは草原にはいつくばる。 「俺は、戻る」 「僕も」 刹那とリジェネは、空気を読んで草原を後に去ってしまった。 「ロックオン・・・・・」 涙を流し続けるティエリアの膝で、ロックオンは叫んだ。 「ちくしょう、ちくしょう!!救えなかった!俺の民なのに!俺の国の民なのに!真実を知ることもなく、アルテイジアはただの狂った教皇だと思っていた。フレイムにセレニアなんて・・・俺は知らなかった。お腹に子を宿して産んで養子に出したことも!」 「教皇庁は、当時隔絶されていました。情報が届くはずありません」 「それでも!俺は・・・・確かに、血の帝国の皇帝なんだ。守る義務があるんだ。滅ぼそうと思ったこともある。でも守りたい。守りたいのに大切な民を殺した。アルテイジアは・・・セレニアは、自分から殺された。俺は」 優しくティエリアが包み込む。 ティエリアの傷は全て癒えていた。 あとは、ロックオンの心の傷を自分が癒してあげるしかない。 「あなたは、その時できる全てのことをしていました。僕だって、教皇の裏にこんな哀しい物語があったなんて知りませんでした。でも、二人はまたこの世界で生まれ巡り合う。僕たちのように」 蒼い蒼い空を見上げる。 さわさわと、緑が揺れる。 「帰りましょう。僕らの、ホームに」 「ああ・・・・」 子猫姿に戻ったフェンリルをティエリアは頭に乗せて、ロックオンが召還したナイトメアで二人はホームに戻った。 フレイムの灰は、故郷であるブラッド帝国におくられ、丁重にセレニアの墓の隣に埋められて、フレイムの墓が建てられた。 神は、万能ではない。 血の神であるネイは、禁忌のエーテルイーターをもつが、創造神たちのようにはいかない。 人から作られた人工の神。 ネイは、それでも自分がしたことの大きさは分かっていた。霊堂をつくり、二人の冥福を祈った。そのためにブラッド帝国に帰還し、ティエリアと一緒に墓参りをして、養子に出されたというフレイムとセレニアの子の親に、大きくなったら二人の子に真実を話すことを約束させた。 罪は罪。一生背負っていく。 それがロックオンとティエリアの生き方だった。 NEXT |