「ち・・・・ネイの姫王め。使えるかと思ったが、ネイやメザーリアと同じで保守派か」 カシナートは自分の息子とその恋人の墓をに供えられていた蒼い薔薇を足でぐちゃぐちゃに踏み潰し、持っていた蒼い薔薇を炎で燃やした。 「ネイではなく、姫王に脅されるとは・・・・・あの姫王、見かけの綺麗なだけの存在ではないな」 ティエリアは、ロックオンと共にブラッド帝国を帰還し、ホームに戻った。 ティエリアは、フレイムロードの王と会ったことは内緒にしていた。何か厄介なことになりそうで。すでに、ロックオンから絶対にフレイムロードの王と会うなと言われている。すでに会ってしまった後だ。 首を刎ねることも容易だと、脅してやったが。 あのフレイムロードの王が、フレイムとセレニアの運命を狂わせた。 皇帝メザーリアによると、自治区の領土をかってに広げ、皇帝であるメザーリアに人間との戦争を進言しているという。フレイムロードの王の周りに集まるのは、同じような野心家ばかり。いずれ反逆をおこすだろうと、もっぱらの宮廷中の噂であるとか。 もっとも、フレイムロードの王は、自分の手を使わずに何かをしそうだが。ああいうタイプは、自分の力だけでは何もできない。自分より更に上位の権力に取り入って、甘い蜜を啜るタイプ。代々の教皇アルテイジアにも取り入っていた。アルテイジアと共に、皇帝とネイを亡き者にしようとしていたとまで言われている。 もっとも、皇帝メザーリアの周囲は忠実な帝国騎士が何百人も遣え、暗殺することもできない。ネイのほうが、フリーな分アサシンを放てば可能性がある。 ホームに戻ったティエリアは、ロックオンとソファーに腰掛けるとティエリアは不安そうに名前をよんだ。 「ロックオン」 「どうしたんだ、ティエリア?」 「僕は」 皇帝からもらったクラウンは、大切に鍵をかけた引き出しにしまった。 ティエリアの瞳が金色から時折、血に支配された真紅に戻るのを、飛行船の中で心配していたロックオン。 ティエリアは、権力争いやそんな醜いこととは自分は無縁だと思っていた。自分がいないのに、そこに名前を出されて人が死んでいく。君主を裏切り、自害し。貴族は皇族になりたがる。ティエリアが裏についていると名前を出せば、愚かな貴族の一部は皇帝を裏切りアサシンとなって、帝国騎士によって捕まり、見せしめとして平民の前で処刑される。そして一族は貴族の位置を剥奪される。。 貴族は、皇帝に服従しているようにみえて、自分も皇族になりたがっているのだ。簒奪者は、ブラッド帝国の法律によって、皇族を自分の力で倒せば皇族となることが認められていた。そんな法律を作り出したのはネイではなく、かつての自分であったジブリエル(ティエリエル)ということを考えただけで、吐き気がしそうだ。 華やかな宮廷の裏は血で彩られている。その血に酔いしれていた時代があった。 法律はメザーリアにかけあったが廃止することはできなかった。その法律があるおかげで、他に反逆者が出ないのだという。貴族たちが束となって、クーデターを起こすこともない。 血塗られた法律で、更に無縁な血を流すことを防いでいるのだ。民の前で処刑し、一族は貴族の地位を奪われ追放という、酷な方法をとることで、野心を抱く貴族も皇族と皇帝に忠誠を誓う。皇族となる夢よりも、自分の命と貴族であることが一番だ。 代々の皇帝が、妄想にとらわれて忠実な家臣や帝国騎士を処刑することもないという。全ては、簒奪者になれば、皇族となれる法律で保障されているから。だから、帝国ではアサシンが歴史の陰にたえず見え隠れする。皇族は、帝国騎士を侍らせて常に命の危険から身を守る。自分自身も鍛錬し、皇族の力は貴族よりも上だ。貴族がアサシンになったところで返り討ちが常である。 でも、束になれば分からない。法律では、束になった場合は簒奪者と認められない。単身ではないとだめだ。だから、愚かな貴族はアサシンとなって皇族を狙い、そして帝国騎士にとらえられその場で殺されるか、見せしめに民の前で処刑されるか。 ネイのために考えたのか、それとも血に酔って考えたのか。 ティエリアは逡巡する。 自分は何をしたいのだろうかと。ネイの正妃であるとこを認めた。権力に興味がないと言いながら、皇帝メザーリアたちが正妃であるティエリアの地位を確固たるものにする。その権力は皇帝より上でネイと同じ。 権力になど興味はない。皇帝になりたくもない。なのにクラウンなど受け取って。 「僕は・・・・・自分が、怖い。いつか、簒奪者になるような気がして」 「それはねーだろ。ティエリアに簒奪者なんて向いていない」 「そうですね・・・・皇族ですから。ネイの正妃は」 「まぁなぁ。宮廷暮らしが嫌だったか?ブラッド帝国にいくことがあれば、俺だけで行こうか?」 「いえ・・・・僕も、連れて行ってください。あなたと、離れたくない」 「俺も、お前と離れたくねぇよ」 舌が絡むキスを何度も繰り返す。 ネイが視たという未来を、メザーリアの手によって見せてもらった。 死に絶えるヴァンパイア。帝国は地上から消え去り、人間の数も激減し、創造の神々をもってしても、そこから再生は不可能だという。 ティエリアはその映像を忘れるように、ロックオンと激しいキスを交わした。 NEXT |