もう一度出会うために「もう一度出会う」







ケルヴィムのコックピットから、森に響き渡った銃声かかすかに聞こえた。

ロックオンは、深く黙祷した。
リジェネという、ティエリアによく似た、天使に。

ケルヴィムはトレミーに帰還した。
ロックオンは、腕にティエリアを抱きかかえていた。
それに、幾つもの疑問が投げかけられ、イノベーターとしての存在であったティエリアを攫ってきたことを話すと、危険であるから殺せという声させあった。
それを、ロックオンは辛抱強く説きふせる。

刹那もアレルヤも、もう一人のティエリアの存在を受け入れ、同じように拒否するクルーを説き伏せた。
そして、危険な兆候が見られた場合、追放ということで話がまとまった。

ティエリアは、血まみれだった衣服をぬぎ、清められ、着替えされられていた。
生前ティエリアが着ていた服を着せる。
そして、ティエリアのベッドに横たわらせた。

懇々と眠り続けるティエリア。
その覚醒を、ずっと待つロックオン。

ロックオンは、夢を見ていた。
バーチャル装置で、ティエリアと結婚式を挙げた小さな小さな教会に、ロックオンはいた。
少女が佇んでいた。
聖母マリアの像を、じっと見上げている。
「よぉ」
ロックオンが、少女に声をかけた。
「お帰りなさい。あなたは、私が標した光の道を選び、生きた」
「天使さん、なんでおれなんかに希望をくれたんだ?」
「それは、因果。あなたに話しても分からないわ。違う次元の物語で、私は未来を授けたから。この世界でも、あなたに未来をあげたかった」
「なんか言ってることわけかかんねー」
クスリと、少女が笑った。
「それでいいのよ。人は、しょせん人ですもの。でも、人であるがゆえに美しくその愛は儚くもありながら、とても素晴らしい」
「愛は、確かに儚いよな。でも、神様は人間に愛というものをくれた。俺は、そのことに感謝している」
聖母マリア像を見上げ、ロックオンが少女の頭を撫でた。

「それは、いいことよ。あなたの愛は、一度終わった。けれど、あなたはまで出会ってしまった。愛する者の魂をもつ者に。もう一度出会うために、あなたはまた、明日から一歩一歩、歩みだしていくの」
「ああ。俺は、もう一度出合った。後悔はしていない。どんな形であれ、もう一度出会えたんだから」
「それでいいわ。愛は、純粋ゆえに脆すぎて儚い。けれど、だからこそ美しい。もう一度、愛の軌跡を歩んでいきなさい」
「なぁ」
バサリと、天使が六枚の翼で羽ばたいた。
「お前さん、名前なんていうんだ?」
「うふふ。私の名は、セラヴィよ。あなたの愛した人の乗る機体と同じ名前よ」
「そりゃ覚えやすそうだ」
「無理ね。あなたは、目覚めたら私の名前を忘れているわ」
「そうなのか?」
「そうよ。だって、私たちは人の理に手を出してはいけないことが掟ですもの」
「じゃあ、あんたは掟破りになるのか?」
「そうなるわね。でもいいのよ。ああ、ジブリール、もう帰るわ。さようなら、ニール。この世界ともお別れよ。ティエリアを幸せにしてあげてね」
「待ってくれよ!!」
天使は、聖母マリアの像に溶けて消えてしまった。
散らばった白く輝く羽を拾いあげる。
「愛は、純粋ゆえに脆すぎて儚い。けれど、だからこそ美しい・・・か」
ロックオンは、小さな教会を出た。

リンゴーン。

鐘が鳴り響く。

ロックオンの夢は、そこで途切れた。


「んあー、よく寝たー!」
軽く伸びをする。そして、ベッドにティエリアの姿がないのに気づいて、ロックオンは叫んだ。
「ティエリア!」

もう、失うものか。
二度と、失うものか。

刹那とアレルヤが、穏やかに話をしていた。
話を聞くと、ミス・スメラギがティエリアの存在を認め、セラヴィのガンダムマイスターにしたのだという。
もう、誰もティエリアに異論を抱くものはなかった。

ロックオンは、全速力で走っていた速度を緩める。
綺麗な歌声が聞こえてくる。
デッキのほうだ。
ゆっくりと、一歩一歩、大地を踏みしめるように歩き出す。
もう一度出会うために。


天は人に試練を与えた 神は人に試練を与えた
生きることへの試練を 人は生きながら噛み締める
天は人に愛を与えた 神は人に愛を与えた
人は生きながら愛し合う 愛の素晴らしさは無限だ
エデンへの扉は締め切られたままだった
けれど人は鍵を手に入れた 人は罪深い
エデンに入る資格などないのに 人は鍵で扉を開けた
アダムとイヴが食べたという木の実を
人は口にする そしてまた罪に身を染める
天は人に試練を与えた 神は人に試練を与えた
生きることへの試練を 人は生きながら噛み締める
人は無限の可能性を秘めたまま生きる
愛の軌跡を 何度も何度も繰り返しながら
天は人に愛を与えた 神は人に愛を与えた
人は生きながら愛し合う 愛の素晴らしさは無限だ
愛の軌跡を 何度も何度も繰り返しながら


パチパチパチ。
小さく拍手を送る。

ゆっくりと、振り返る影。

誰よりも愛しい、その魂。

ゆっくりと、時間が流れる。
綺麗な歌声は止み、綺麗なボーイソプラノでその影は声を出す。

「ロックオン!」
「ティエリア!」
そのまま、風に吹かれながら、抱きしめあう。
お互いの温もりを確かめ合うように。
何度も、何度も。

ゆっくりと、一歩一歩、二人で歩き出す。
もう一度出会うために歩き出した足は、邂逅を迎える。

「僕は、あなたが愛したティエリアではありません。でも、あなたが愛したティエリアの記憶を持っています」
「ティエリア」
「この世界で誰よりもあなたを愛しています。ミーティングルームの花、全部摘んでしまったんですね。あの白い花が好きだったのに」
「なぁに、ドクター・モレノが暇だって植物に再生治療をやってたぞ。すぐに花を咲かせるさ」
「本当ですか?」
石榴色の瞳が嬉しそうに輝く。

「ロックオン。もう一度、僕に出会いにきてくれてありがとう」
「ティエリア。もう一度、俺と出会ってくれてありがとう」

二人は、ゆっくりと唇を重ねあった。

「いつか、バーチャル装置の仮想空間であげた結婚式のように、小さな教会でいいので、結婚式をあげましょうね。もちろん、アイルランドで。そして、家族になって幸せに暮らすんです」
ティエリアが、涙を零した。
そして、ロックオンに縋りついた。
「愛しています!こんな形になってしまいましたが、あなたを愛しています!」
「俺も、お前を愛している。攫ってまで、連れてきた。お前にもう一度出会うために」
「はい。僕は、もう一度あなたという魂に出会えました。覚えていますか?僕のシリアルNOは8です。個体番号8のティエリア・アーデ。あなたを愛する者です」
「ちゃんと、覚えてるぜ。おれは、ニール・ディランディ、コードネームはロックオン・ストラトス。ティエリア・アーデを愛する者だ」
「僕が一番好きな唄は何か知っていますか?」
「勿論。”愛の唄”・・・・だろ?」
「正解です」
ティエリアは、透明な涙を零した。
自分を解放し、羽ばたかせてくれたリジェネの分まで。
「どうか、リジェネ・レジェッタのことを忘れないであげてください。僕の、大切な大切な兄弟です」
「ああ。絶対に、忘れない」
温もりを確かめるように、抱きしめあう。

「俺からの質問。ティエリアは、結婚したら俺になんて名乗らせようとしてた?」
「勿論覚えてますよ。僕は、ティエリア・アーデという響きが好きなので、あなたにニール・アーデと名乗ってくれるように頼みました」
「正解」
ティエリアの次々に溢れる涙を拭きとって、また唇を重ねた。

そして、遥か彼方の青空に手を伸ばす。
ロックオンは、ティエリアを抱いて、デッキをくるくる回った。
太陽が、燦燦と輝いて、二人を、優しく、そして強く照らす。
ティエリアが無邪気な笑い声をあげた。
「あへ。周りすぎて目が回る」
へなへなと腰を下ろしたロックオンに、ティエリアが微笑む。

天使の微笑み。
そういえば、夢の中で天使の少女が出てきたが、名前はなんといっただろう。
忘れてしまった。
思い出そうにも、思い出せない。

ロックオンは、ティエリアとまた出会えたことに、心から感謝した。
そして、また二人で明日を歩んでいくのだ。
「なぁ、ティエリア」
「なんですか?」
「愛の唄が聞きたい。歌ってくれ」
「はい、喜んで」

デッキから、綺麗な歌姫の声が風にのって大空に吸い込まれていく。

天は人に試練を与えた 神は人に試練を与えた
生きることへの試練を 人は生きながら噛み締める
天は人に愛を与えた 神は人に愛を与えた
人は生きながら愛し合う 愛の素晴らしさは無限だ
エデンへの扉は締め切られたままだった
けれど人は鍵を手に入れた 人は罪深い
エデンに入る資格などないのに 人は鍵で扉を開けた
アダムとイヴが食べたという木の実を
人は口にする そしてまた罪に身を染める
天は人に試練を与えた 神は人に試練を与えた
生きることへの試練を 人は生きながら噛み締める
人は無限の可能性を秘めたまま生きる
愛の軌跡を 何度も何度も繰り返しながら
天は人に愛を与えた 神は人に愛を与えた
人は生きながら愛し合う 愛の素晴らしさは無限だ
愛の軌跡を 何度も何度も繰り返しながら

愛の唄は、綺麗に響き続けた。
ロックオンとティエリアは、幸福そうに、二人で歩きだす。
もう一度出会うために歩き出した足は、確かに、もう一度出合った。
これからも、二人は互いを愛し合いながら、歩いていく。
ティエリアは、新たなガンダムマイスターとなり、セラヴィのパイロットとなった。
そして、宇宙をロックオンの乗ったケルヴィムと翔ける。

自分の手で、明日を切り開いていくために。



       もう一度出会うために 
           The end
                   Thank you for you
              Present by Touha Masaya
                            
                愛の唄は、誰の心にもある
  なぜなら、人は愛という感情を持っているから


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とりあず、お疲れ様。
ここまで読んでくれた人にも、打った自分にも。
ちょっと「それが、禁忌でも〜」と重なるかんじがないでもしないですが、まぁ完全パラレルで。
どうでしたでしょうか。
完全パラレル版(といっても、時代スリップとかはないですが)切なめを目指してよく分からなくなった長編ロクティエ小説、これにて一応終曲です。
番外編を打つ力は、今のところのこっておりません。
これだけの量を、構想もなしに打つのに約8時間かかりました。
無論、休憩なしのぶっつけ本番ゴー!
流石に疲れた。
現在、朝の6時51分です。
完全に昼夜逆転。そろそろ寝ないとね。だめ人間生活ですね。だめでめですね。。。。
よければ、ご感想などお待ちしております。この作品でなくとも、過去作品の何かのご感想を下されば嬉しいです。無論お礼SSもかきおろします。

あぎゃーーーー!
ティエ勝手に殺してしまって、本当にすいませんでした(逃げ出した)
ところで、長編小説ってやっぱりある程度、物語のすじがきとか書いて打つのでしょうか。
俺の場合は(冬葉は女だぞ・笑)ほんとに、一言の台詞だけから物語を書いたり、何も考えずにぼけーっと打っていくといつの間にはそれなりの話になるんですよ。不思議。
数をこなしてきたせいもあるでしょうか。
ではまた、起きたらで!
たまには甘めのロクティエとか15禁とかどうなんだとおもったり。アレハレも打ちたい・・・・。
人間やめますか?・・・・・・・・すでにやめてます(おい)