血と聖水ロックオン外伝「魔女と吸血鬼」2







「今から話すのは・・・今から十数年前のお話。そう遠くない過去、ティエリア、お前と出会う前のお話だ」
その言葉に興味を引かれて、ティエリアはロックオンの話に耳を傾ける。
「俺はある時・・・・」
そこから、ロックオンの昔話ははじまる。

「くそ、イノベイターか!」
ロックオンは深手を負って、コアを傷つけられた。
千年の間、ずっとヴァンパイアハンターを返り討ちにしてきたロックオン。
でも、時折イノベイターという人工ヴァンパイアのヴァンパイアハンターが、ロックオンを仲間の仇討ちとして始末しようとやってくる。
ヴァンパイアハンター側では、七つ星の最高ランクのヴァンパイアハンターを何人も亡き者にしていたロックオンを、退治するということは無駄な犠牲者を増やすだけなので、ロックオンの首に懸賞金はかかっていなかった。
女王ティエルマリアよりも前の世代でも、イノベイターは霊子学研究所を使って作られていた。
イノベイターは、とにかく厄介だ。裏のハンター協会のエターナルの貴族どもは、決してロックオンを退治しようとしない。ロックオンを、皇族の最頂点にいる、真の皇帝ネイと知っているからだ。裏の貴族のエターナルのヴァンパイアハンターは自分よりも身分が上の、皇族、王族、皇帝に手を出すことはない。
それは、決して勝てないからだ。貴族の血は皇族や王族よりも下。力も下。
ブラッド帝国に住むヴァンパイアと人類世界に住むヴァンパイアの決定的な違いは、血にある。
ブラッド帝国に住むヴァンパイアはエターナルや亜種族で形成されており、血族にされた人間も完全なるヴァンパイアとなって純血種となる。全てのヴァンパイアの血は純血である。人間世界のヴァンパイアはエターナルの血も混じれば、人間を血族にしても、その血族となったヴァンパイアには人間の血も混じり、濁っている。何より、堕ちた者が人間世界のヴァンパイア。寿命も帝国生まれの者に比べて圧倒的に短い上に、凶暴性が高く、人を襲って殺す者が多い。
ブラッド帝国では人間との共存は当たり前。人間を襲うことは法律で禁止され、襲えば死刑だ。血の民は気高い。自分たちよりも弱い人間を襲っていたぶるような真似はしない。人間は血液バンクで食料となる血を与えてくれるありがたい存在であり、弱いからこそ庇護すべき対象となる。
ある意味、人間世界よりもブラッド帝国で生まれた人間のほうが幸せである。寿命も長いし、そこに貧富の差はない。人間世界では人間の奴隷が存在するし貧民も多いが、ブラッド帝国には存在しない。生活水準は上流市民の水準を保ち、貴族や皇族に遣えれば更に生活水準はあがる。
そして何より、ヴァンパイアに襲われて死んだりヴァンピールになるという恐怖が皆無なのだ。帝国のヴァンパイア達は同じ民である人間と普通に会話をして、仕事も普通にまじって日常生活をこなす。そこに種族という垣根は存在しない。何より、血族として迎えられるという、人間も新人類になり、長寿を得る可能性が高い。
共存しているが、人間との結婚は法律で禁止されている。恋愛も。だが、人間を血族として迎え、同じヴァンパイアにしてしまえば恋愛は自由だし、結婚も可能だ。抜け道なんていくらでもある。
帝国生まれの人間は、決して外の世界に出たがらない。疫病などが蔓延する外の世界など、なんの魅力もない。ヴァンパイアを主としなくてもいい、完全なる共存。生活は皇帝が金を投資して無料の医療制度、学校、娯楽施設、温泉などの健康ランド・・・楽な反面、禁止されていることも無論ある。阿片などの麻薬は禁制。ヴァンパイアは阿片や麻薬を好んで常用するが、人間は禁断症状を催すので使ってはいけない。酒と煙草は、配給制で、過度のものは禁制。配給以外のものを所有し使うとすぐ分かる仕組みになっていた。

「俺としたことが、迂闊だった・・・」
何度がイノベイターのヴァンパイアハンターと戦ったことはあるが、皆苦戦を強いられて結局は勝負は引き分け状態となって去っていく。
「リボンズ・・・・・・アルマーク・・・・くそ」
今は吸血王だの魔王だのいわれるリボンズ・アルマークも当時はただのイノベイターのヴァンパイアハンターだった。そこから、彼は人を襲いだして吸血王だの魔王だの恐れられる存在になった。
ヴァンパイアハンターとしての腕は、七つ星の中でも最高のトリプルAクラスは間違いないだろう。リボンズとは、たくさんのヴァンパイアマスターやロードを滅ぼしたとして、ヴァンパイアの仲間からも恐れられている存在である。いくつかの町や国を滅ぼした伝説のヴァンパイアたちが、リボンズの手によって殺されている。
ロックオンは、コアを傷つけられた。もう少しで、殺されるところだった。相手が追いかけてきているのが分かる。
ここで殺されてたまるものか。
「いたな、南の3つの王国を滅ぼした水銀のニール」
「は、お前なんかに殺されるかよ!」
血でできた刃をいくつも放つが、リボンズは平気でそれを全てビームサーベルで跳ね返した。
(目覚めよ、我は汝の中にいたり。我は汝、汝は我。さぁ、目覚めよ)
その時だった。頭の中に、声が聞こえたのだ。
時折見る夢の中で、ロックオンはネイとしてブラッド帝国に君臨していた。自分がネイであると薄々気づきながらも、その力の片鱗はなかった。
「我は・・・・・ネイ」
背中にいつもの白いエターナルの証である一対の翼ではない6枚の翼が現れ、それをどう使えばいいのか自分の頭の中に言葉が浮かんだ。
「エーテルイーター封印解除、起動!」
キュイイイイイン。
音が渦巻く。背の翼が咆哮した。
「エーテルイーター!?神の力・・・・お前は、ネイ、ネイなのか!」
「80%限定解除・・・・・解除クリア、始動!」
背の巨大な6枚の翼は、それ自体が怪物だ。エーテルを求めて、同胞を食う禁忌の力。
「ガウウウウ」
翼は飢えていた。もう千年ほどの間何も食べていなかった。
「我は召還す・・・・・。創造の神ルシエードよきたれ!」
そのイノベイターは、なんとこの世界を創造した神と契約していた。
契約にのっとり、神の地からルシエードが召還された。
「ルシエード、僕の命令は聞けるかい?」
「否、お前とは契約を交わしたが、神である私は命令など聞かぬ。ネイの気配を感じて召還に応じたまで。ほう・・・・。随分と変わったものだ。エーテルイーターに支配されているのか。神であるお前が」
ルシエードは絶対的美しさと威圧感をたたえたまま、エーテルイーターに支配されているロックオンを見る。
オッドアイは世界を支配する者の証。
緑と紫のオッドアイをもったその神は、ロックオンの前に立った。
エーテルイーターは、巨大なエーテルの塊であった神を食らおうとする。
喉元にかみつかれ、大量の鮮血を撒き散らしながらルシエードは笑った。
「ネイ。戻って来い。人工の神よ」
エーテルイーターを素手で掴むと、引き裂いた。
「ぎゃおううう!!」
エーテルイーターは分離し、のたうちまわった後、またロックオンの、ネイの背の翼に吸収される。
大量のエーテルを吸収したエーテルイーターは大人しくなった。
「・・・・・・ルシエード、か。久しいな。何千年ぶりだ。六千年以上か。そんなことはどうでもいい。イノベイター如きと契約するなど・・・・お前も気まぐれだな」
「お互い様だろう。愛する者を転生させるために神の力を放棄しようなど。そんなこと、できるはずもないのに。神の力は失ってもまた戻る。それが神という存在だ」
「もっともだ・・・・・さて、我はもう眠る。まだ時ではない。覚醒まで眠る。我を起こすな。怒らせるな。イノベイターの子供よ。我に灰にされたいのなら、話は別だが」
「僕が・・・なれなかった、人工の神・・・・」
リボンズは、ネイを凝視する。
「汝。いつか人を襲い、この世界に魔王として君臨するであろう」
「そんなばかなことがあるか!僕は、ヴァンパイアハンターだ」
「さて。そのようなものか。まぁ眠い。眠る。ジブリエルと出会うまで、我は眠るのだ。ルシエード、お前とて我の眠りを妨げることは許さぬ」
「妨げるものか。お前がエーテルイーターに支配されそうになっていたから、少し粉をかけただけ。私も戻る」
ルシエードは、空間の扉をあけて神の地に戻ってしまった。
リボンズは、ただネイをずっと見つめていた。ずっと、ずっと。
「神・・・・・・。神・・・・」


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