夢の軌跡







ぼけー。
ティエリアは、食後に何もすることもなく、ぼーっとしていた。
ミス・スメラギから依頼された同人誌の原稿もかき上げた。小説も書き下ろした。表紙のCGも塗ったし、カットのイラストもかいた。
二人のサークルのサイトであるHPにもCGを数枚かきおろして更新した。
バーチャル装置を使う戦闘訓練は、もう飽きるほどにやった。
ライルが入ったバーチャル装置と連結して、二人でのコンビネーションも上手くなった。
刹那が通販で買った同人誌も全て読んでしまった。
手持ちの専門書や小説も全部読んでしまった。

することがない。

何か有効な時間の使い方はないだろうか。
仲間の機体を分析にかけるのも終わったし、新しいフォーメーションプランも練り終わった。今頃、ミス・スメラギは締め切りに追われながら必死で原稿をかいているだろう。
手伝ってくれといわれていないので、ティエリアは手伝わない。

真新しいコップを取り出し、それにホワイトメロンソーダを注いだ。
くすりと、背後から可愛らしい笑みが聞こえた。
振り返ると、銀色の髪をした乙女が自分を見ていた。
アレルヤの恋人、マリーだ。
「ティエリアさんは、メロンソーダがお好きなんですね」
まるで子供のようだと言われているようで、ティエリアはどう答えようか迷った。
「ティエリアはね、メロンソーダが昔から大好きなんだよ。他にもココアとか、甘いものが好きなんだ」
アレルヤが、食堂のカウンター席に座って、マリーとティエリアを優しそうに見つめる。
「僕は、別に」
言いよどむ。
否定しようとして、毎日のように食後にメロンソーダを飲んでいる事実は消えない。

「私も飲もうかしら」
マリーが、新しいコップと取り出して、それにホワイトメロンソーダーを入れて、一口飲んだ。
「おいしい。それに甘いわ」
そのままアレルヤのところにいくと、中身を口にして口移しでアレルヤに飲ます。
「おいしいね。それに、ほんとに甘い」
甘いのは、あんたらふたりのラブラブぶりだろうと言いたかったが、恋人たちの幸せな時間を壊すような、無粋な真似をティエリアは決してしない。
ティエリアは、マリーとアレルヤのラブラブぶりを無視して、ホワイトメロンソーダの入ったコップを手にすると、ストローをさしこんだ。
そして、もともと座っていた位置に戻って飲む。
確かに、甘い。

「アレルヤ、私にも飲ませて?」
アレルヤは、コップの中身を口にすると、マリーに口づけする。
普通に飲めないのかお前らは。
ティエリアは、心の中でツッコミを入れていた。
「ああ、幸せだわ。なんて幸せなのかしら」
「僕も幸せだよ、マリー」
安い幸せだなぁ。ティエリアはそんなことを思っていた。
ホワイトメロンソーダに限らず、ドリンク類はただで飲める。
アレルヤとマリーの幸せは0円か。
アホなことを考える。だめだ、暇すぎる。

「アレルヤ、キスして?」
「マリー、愛しているよ」
二人の空間は、ピンク色に染まりまくって、メガピンクだった。
百合と薔薇を背景に背負っている。
「私も愛しているわ、アレルヤ」
二人で、啄むような口付けを何度もかます。

ヴァーチャル装置に入って、仮想空間におり、AIマリアに愚痴でもたれようか。
そんなことを考えていると、気づかないうちに刹那が食堂に入ってきていた。
そして、当たり前のようにティエリアの隣に座ると、目の前にあったコップにストローを入れて勝手に飲んでいく。
いつもいつも、刹那はティエリアの食事や飲み物を勝手に食べたり飲んだりした。
ほとんど口にしていなかったコップの中身が、あっという間に空になってしまった。
どうにも、喉が渇いていたらしい。
「刹那、喉がかわいているなら自分でドリンクを選んだらどうだ」
「ティエリアが飲んでいるやつがいい」
二人の会話を、マリーが眼を輝かせながら聞いていた。
同人誌のせいで、立派な腐女子となってしまったマリーには、刹那とティエリアの関係がたまらないらしい。
「ちゃんと飲みたかったのに」
空になってしまったコップを見る。
またドリンクを注ぎ直すのもかったるい。
刹那が、ティエリアの顎に手をかける。
そのまま、唇が重なった。
「甘い」
刹那の舌に残る味に、ティエリアがそう言った。

マリーは、悶え死にそうになっている。
「マ、マリー、戻ってきて!」
アレルヤが、違う世界にいきかけていたマリーを抱きしめる。
そして、マリーはアレルヤを抱きしめ返した。
「大丈夫よ、ちょっと萌えていだだけから。アレルヤ、大好きよ」
また、キスを繰り返す。

「ティエリア、一緒に仮想世界に降りよう。戦闘訓練がしたい」
刹那の機体はダブルオーライザーである。
戦闘訓練などしなくとも、圧倒的な破壊力を誇っている。だが、訓練をすることにこしたことはない。
ティエリアは予定もないので、頷いた。
甘すぎる恋人たちのいるこの空間はほんとに甘すぎて砂糖を吐きそうだ。
二人は並んで立ち上がった。

「いってらっしゃい」
「アレルヤ、君もたまには戦闘訓練をしたらどうだ」
「いや、まぁ、時間があいたらね。今はマリーと一緒にいたいから」
「まったく」
ティエリアは、手が負えないとばりに二人を残して、刹那と一緒に食堂を後にした。

仮想世界にダイブすると、聞きなれた声がする。
(マスター、AIマリアを今日もご利用くださり、ありがとうございます)
そして、セラヴィとダブルオーライザーにそれぞれ乗って、アロウズの紅い機体を破壊しつくすために、宙を翔けぬけた。