神に見捨てられた天使「地上の天使の歌声」







ドイツのホテルをとって、そのまま町に繰り出す。
昔、なじみだった宝石店はもうなくなっていた。大通りをぬけて、百貨店やらスーパーやらが並ぶ通りに出ると、ファッション通りに出た。衣服や宝石店が並んでいる。
そのうちの一軒に、なんとなく入る。
店の店員は、アンドロイドだった。
「いらっしゃいませ。どのようなものをお求めですか?」
「えーと。エメラルドのペアリングあるかな?」
「ございます。こちらなど、いかがでしょうか?」
アンドロイドは、商売心もあるらしく、手ごろな値段の指輪を出してきた。
「んーこっちのほう、見せてもらえる?」
ロックオンはデザインが気に食わなかったようで、違うリングを指差した。
「こちらですね、かしこまりました」
アンドロイドは、その指輪をケースを開けてだすと、ロックオンとティエリアの前に置いた。
「うん、これにするよ」
「ありがとうございます」
「対の・・・ガーネットのなんて、ないよな?」
「誠に申し訳ありませんが、ルビーのならございますが」
「じゃ、同じエメラルドのでいいや」
隣にいたアンドロイドが、ティエリアとロックオンの指輪のサイズを測って、それにあったエメラルドをあしらったペアリングをケースの下にある引き出しから出した。
アンドロイドが、ユーロで値段を告げる。ロックオンは、財布を開けて天を仰いだ。
「やべ。ドルだよ・・・・」
「ドルは世界共通貨幣になっております。ユーロと円も扱っております」
「助かった・・・・」
「ロックオン・・・昔はユーロばっかり財布にいれてたのに」
隣のティエリアが、クスリと笑みを零す。
「昔は昔、今は今」
アンドロイドがドルでユーロの値段を計算する。
その値段を払って、二人は包装してもらわずに、指にはめて店を出た。

「さて、どうすっかな?」
「わがままを、言ってもいいですか」
「いいぞ。なんでもどーんとこい」
「じゃあ、世界をジャボテンダーで埋め尽くしてください」
「ごめん、それむり」
ティエリアは両手を広げて、風を抱く。
「このまま、デートしましょう」
「アイアイサー」

二人はそのままファッション街をうろつき、店に入るとティエリア用の衣服を買った。ユニセックスな、ティーンズファッションだ。ロックオンも服を買った。
けっこうな出費になったが、ティエリアの口座の金は驚くほどあったので、事足りた。
二人は手を繋いで町を歩く。
誰もが二人を振り返る。
ポニーテールにしてリボンを結び、ユニセックスな水色のサマーセーターに白の半ズボン、黒のハイソックスに皮の茶色のブーツ、紅いスカーフに、黒の帽子を被ったティエリアは特に一目を惹いた。
昔からティエリアは人の視線を集める子だった。
こうして幸せに包まれ、楽しそうなティエリアは美しさにも磨きがかかっている。
一方のロックオンは黒の上下に薄い黒のコート。グローブはしていない。もう必要ないからだ。
スナイパーとしての腕は鈍ってはいないが、もうその能力は必要ないのだ。
ティエリアから聞いた世界とCBの有様に、ロックオンも失望を隠せないようだった。特にCBの現在の状態については、もう絶望といっても過言ではない。
「CBは、A国に対して武力介入を決定。これに伴い、連邦政府も軍を出動すると」
ふと、ニュースが流れ、そんなリポーターの声が聞こえてきた。
「CBか・・・・懐かしいな」
「そうですね」
ティエリアは駆け出した。
「おい、ティエリア!」
風で髪が靡く。帽子を落とさないように手をあてて、走っていく。
たどり着いた場所は、公園の噴水。
「あ、ここ・・・・・」
「覚えてますか?」
昔、何度かデートのために待ち合わせをした公園だった。
「まだあったのかぁ」
「そうみたいですね」

二人で、ベンチに座って手を繋ぐ。
公園で売っていたクレープを購入して、二人で食べた。
ティエリアは、味覚がすでに破壊されていたが、おいしいと思った。味は分からなかったけれど、ロックオンと一緒に食べれるだけで、どんな食べ物も飲み物もおいしいと思える。
ティエリアは、帽子をロックオンの頭に被せて、両手を広げると歌い出した。
もう今から数百年どころか、千年以上前の歌姫、オリガの歌だ。今は西暦3000年を越えている。
人類は宇宙に進出し、異種と交わり、そして火星を人が住める環境にすることに成功し、多くの人工惑星やプラントを作り上げ、人類の3分の1は宇宙へと進出した。
その功績はCBにある。
CBは、異種との間にも人間の不老不死を探し求めていた。今でも捜し求めている。
だが、今だに不老不死になることに成功したことはない。イノベイターを作ってもそれは失敗作に終わり、イノベイターの遺伝子に似せて人の遺伝子を操作しても不完全で終わる。
そして、細胞を移植した者はティエリアと同じ病にかかったり、拒否反応をおこしたりと。
人は、寿命が150年と圧倒的に伸びたそれだけではまだ足りないのだ。

「綺麗な歌だな」
神に見捨てられた天使の歌だった。

神よ神よどうか見捨てないて あなたを愛しているのに
こんなに愛しているのに どうか見捨てないで
どうかもう一度奇跡を 希望の光を・・・・

何度も繰り返されるフレーズに、ジブリールという名の天使が、ティエリアのことを地上の天使と呼んでいたことを思い出す。
この地上の天使は、神に見捨てられた天使なのだろうか。
神は、ここにはいない。
ティエリアは歌い続ける。透明なオーロラのような声は、初夏の空に吸い込まれていった。


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