「ん〜」 起床時間になり、アレルヤは目を覚ました。 いつも、目覚ましはかけていない。 体内時計で、自然に起床時間におきた。 少し早い時間であるが、昔からこの時間に起きているので構わないと思っていた。 パジャマから着替え、ベッドを綺麗に整える。 そして、大きな欠伸を一つ。 ちゃんと就寝時間に寝たので、睡眠はちゃんととっている。 短くもなければ長くもない。 アレルヤは、毎日8時間きっかり眠っていた。 朝6時にはちゃんと起きる。 6時間程度でもいけるのだが、戦闘があったときなどにくたびれると長時間寝てしまうくせが出てしまう。 そんなことがないように、8時間という睡眠時間をとると自分で決めて、それを守っていた。 就寝時間がくると、普通は皆はまだ起きている。 就寝時間は10時だ。そんな早い時間に寝る輩など、トレミーでも少数だろう。 それは、就寝時間とはいっても、最初の就寝時間である。 次にくる就寝時間は12時だ。 最後は1時。 それを過ぎて起きていると、まず怒られる。 自室で起きている限りはばれないだろうが、トレミーの中を歩き回っていたりすると、その日の見回りの担当に決められていたものが怒鳴りちらして、早く寝るようにと促すのだ。 主に、見回りは刹那とティエリアの仕事だった。 刹那は一度10時に寝ると、1時きっかりに目覚めてトレミーを見回る。 そして、ティエリアは1時までずっと起きている。 刹那と一緒にトレミーを見回り、異常がないかを確認して、二人は眠りについた。 はっきりいって、刹那は眠りすぎかもしれない。 10時〜1時までねて、トレミーを30分かけて異常がないか点検したあと、8時までぐっすりと眠るのだ。 刹那は子供のように、よく眠る。そして、よく食べる。 まさに、健康そのものの存在だ。 早く寝て、それなりに少し遅いかもしれないが、早めに起きる。 一方のティエリアは、1時30分には就寝につくと、なかなか起きなかった。 放置しておけば、昼まで惰眠を貪る。 ティエリアは、極度の低血圧なのだ。 睡眠をとっても日によっては浅かった深かったりばらばらで、起床時間の8時になってもティエリアは起きない。 ティエリアは、最初は目覚ましをかけていた。 だが、寝ている間に目覚ましをその強力な蹴りで破壊してしまうのである。 今までティエリアに破壊された目覚ましの数は100を余裕でこえているだろう。 朝食の最終時刻は9時半。 それを過ぎると、コックは朝早く起きた分の仮眠にいってしまう。 余分な量は作らない。 つまりは、普通に起きていたら、ティエリアは朝食を食いはぐれるのだ。 だが、ティエリアはいつも飲むタイプのゼリーを朝食変わりにしており、昼食はちゃんと食べる。 だが、健康にはまずは朝食をとるのは基本である。 ティエリアの生活を知った刹那が、ティエリアを9時に無理やり起こし、朝食ぎりぎりの9時20分頃に食堂に引きずって現れ、コックに最後の朝食を調理してもらい、半分眠りながらティエリアはのらりくらりと朝食を口にする。 刹那がしっかりみていないと、ティエリアは朝食を食べかけたまま眠ってしまう。 それを、刹那が起して朝食を取らせる。 刹那も、ティエリアの朝食の時間にあわせて、いつも一緒に遅めの朝食をとっていた。 何もないトレミーでは、主に昼からがスケジュール通りの行動となり、バーチャル装置を使った戦闘訓練などが入ってくる。 12時を過ぎるとティエリアは完全に覚醒しているので、スケジュール通りに一日をこなす、 刹那とティエリアは、本当におしどり夫婦のようだ。 見ていて、微笑ましい。 ティエリアの世話をやく刹那はどこまでも優しく、そして昼が過ぎて完全に覚醒した刹那と一緒にバーチャル装置に入って、仮想世界に降り、戦闘訓練をする。 戦闘訓練も何もないときは、ガンダムマイスターで他愛もない会話をしたり、刹那が通販で買った同人誌を読んだり、ネットにダイブしたり、あるいはティエリアは一人で小説や専門書を読んだり、ミス・スメラギの原稿を手伝ったり、自分で依頼された原稿を描く。 そんな時は、刹那と別行動になる。だが、たいていの一日の時間を刹那と過ごした。 昼に貪る惰眠ですら、時折刹那と一緒に眠った。 羨ましい。 それが、アレルヤの素直な意見だった。 自分にもマリーという愛しい存在がおり、一緒の時間を過ごす。 一日の大半をマリーと過ごした。 だが、アレルヤにはティエリアと刹那の微妙な関係が羨ましかった。 ティエリアは無論大好きだが、恋愛感情は抱いてはいない。 恋愛感情を抱いているのは、マリーに対してだけだ。 まるで、もう一人の自分の世話をやくように、まるで半身である存在関係のようなティエリアと刹那の関係が、とてもアレルヤには羨ましかった。 何故ななら、昔も自分はあんなかんじだったから。 制服に着替え、顔を洗って、歯を磨く。 洗面所の鏡の前に立つ。 いつもと同じ一日がこようとしている。 そして、アレルヤはいつものように、毎日かかさず、朝になると鏡をみて、金色に光る自分の目を見つめた。 「おはよう、ハレルヤ」 毎日の日課だ。 昔は、ハレルヤにいろいろと世話をやいてもらって。朝6時に起きることでさえ、ハレルヤが起してくれたのだ。 もう一度、鏡に向かって言葉をかける。 「おはよう、ハレルヤ」 答えはないけれど。 返ってくることはないけれど。 返事がないのは分かっているけれど。 それでも、毎日毎日、朝がきたら、鏡に向かってハレルヤにおはようと言った。 眠るときも、同じように「おやすみ、ハレルヤ」といって眠りつく。 忘れたくないのだ。 自分の半身の存在を。 アレルヤの命を守って消えてしまったハレルヤ。 「さて、今日も一日元気に頑張ろうね」 自分に言いきかすように、あるいはハレルヤに語るように。 制服に乱れがないかをチェックして、自室を出る。 マリーはまだ寝ている。 朝は、いつも一緒に朝食をとる。 朝一番に、アレルヤはバーチャル装置に入って軽く戦闘訓練をする。 それが終わると、マリーを起しにいき、一緒に朝食をとるのだ。 「ティエリア、ちゃんと目を開けろ」 「刹那、僕はもうだめだ。眠らせてくれ・・・・・ZZZZ」 眠りにつこうとするティエリアを無理やり起こし、二人分のトレイをもって、半分寝ているティエリアの前におくと、隣に刹那は座る。 そして、ティエリアが大好きなホワイトメロンソーダをコップに注ぎ、もってくる。 「ほら、ホワイトメロンソーダだぞ」 「ZZZZ・・・・・・・・おはよう、刹那」 ホワイトメロンソーダをもってこられると、ティエリアは眠気をおしやって、ドリンクを口にする。 そして、食事をはじめる。 低血圧で大変そうだが、食事を刹那ととっていくことでティエリアは少しづつ完全に覚醒する。 「このスープはうまいな」 「ああ、確かにうまい」 眠そうな顔をしながらも、刹那と一緒に朝食をとる。 時間がかかってしまうが、刹那は気にすることなく、食べ終わるとティエリアが食べ終わるまで待った。 「ごちそうさま」 ティエリアが、丁寧に手をあわせる。 それにあわせて、すでに食べてしまった刹那も手をあわせて「ごちそうさま」と無表情な顔で口にした。 二人並んで、歩きだす。 今日は何をしようかと会話をしている。 「どうしたの、アレルヤ?」 「ううん、なんでもないんだ、マリー。このスープ、おいしいね」 「ええ、本当においしいわね」 向かいの席に座ったマリーに微笑む。 昔は、あの二人のように、体は一つだったけれど、ハレルヤと会話をしていたんだ。 (ごちそうさま、ハレルヤ) アレルヤは、心の中でそう言った。 口に出してしまうと、マリーが悲しむからだ。 (さぁ、今日も一日元気にがんばろうね、ハレルヤ) マリーと手を繋ぎながら、歩き出す。 ハレルヤ。今でも、君が大好きだよ。 愛しているよ。 僕の魂の双子。 もう一人の僕。 アレルヤは、オッドアイの金色の光を哀しそうに伏せる。 (ぎゃははは、ばーか!) そんな口の悪い悪態とともに、ハレルヤの言葉がすぐにでも返ってくる気がする。 でも、答えはない。 答えはないけれど。 それでも。 (バーカ、アレルヤ、だからてめぇは起きるのが遅いんだよ!) (酷いよアレルヤ!こんな早朝に起さなくってもいいだろ!) (知るかボケ!) 昔のことを思い出す。 自然と、笑みが浮かんだ。 「あら、アレルヤ、元気がよさそうね。どうしたのかしら?」 銀色の髪の乙女が、アレルヤの顔をのぞきこんでくる。 「ううん、ちょっと昔のことを思い出していただけだよ」 答えはないけれど。 それでも。 毎日繰り返す。 「おはよう、ハレルヤ」 「おやすみ、ハレルヤ」 答えはないけれど。 |