「そこまでだ!余を愚弄しおって!ティエリア、今なら許す!こちらに戻れ!」 「お上・・・・あなたは、永遠に私を手に入れることなど、できません。何故なら、私はニールのものだから」 「ティエリア・アーデ!お前は中性じゃぞ!お上に献上されるべき存在じゃ!我侭も大概にしろ!」 「お前もなぁ!我侭も、大概にしやがれ!何がお上だ!俺からティエリアを奪ったあげく皇后にするなんて。ほんと、頭ン中いつでも春なんじゃねーの?バーカバーカ」 ニールは、お上に向かってなんとも不遜な言葉を浮かべる。 「ぬうう、そちは、処刑じゃ!ティエリア、そちもただで済むと思うな!百叩きの刑にした後、記憶を全て消して再教育してやる!」 「あははははは!!」 「ぎゃはははは!!」 ティエリアとニールは、狂ったように笑った。 「だってさ、ティエリア。どうする?」 「もう決めてるくせに」 「そうだなぁ。ティエリアは怖くない?」 「怖くありません。あなたと、一緒なら・・・・」 二人は、空を見上げた。一羽の海鳥が、空を渡っていくのを二人で見つめる。 ちらちらと、二人の周囲に光の桜が降ってくる。 中性の、奇跡の力。 ポウと額に浮かんだティエリアの蒼い、ニールがティエリアが14歳の時に刻んだ紋章が現れる。 聖女。そう呼ばれる所以。奇跡の力をもつ神の子。それが中性。 「お母様!!」 リジェネは、これから何が起こるのか悟って、涙を流して母親であるティエリアにしがみつく。 実の母ではないが、確かに一年間は母親だった。リジェネの。 「リジェネ・・・この国に生まれた中性は、皇帝に献上され、不幸になるのです。よいですか。あなたも、いつかお上になるのです。どうか、あの父親のように権力にまみれたくずにはならないでください。どうか、願うことなら、中性を保護する法律を作ってください。それは強制ではなく、不幸な中性がいたら保護し、大切にするのです。中性が愛する人がいれば、引き裂くことなどなく、一緒にさせてあげてください・・・・」 ティエリアは、涙を浮かべてリジェネの頬にキスをした。 「お母様、いやだ、いやだ、いかないで!!」 ティエリアは、とんと、リジェネを突き飛ばした。 リジェネは、ティエリアの奇跡の力で、お上の船に飛ばされた。そして、船子たちも全て。 「いつか、また出会うことを祈って」 「出会えるよ。絶対に、絶対に。桜の下で、待ってる」 「私も、待っています。桜の下で・・・」 二人は、頷きあった。 まずは、ニールがティエリアから宝剣をうけとり、それで首の動脈を切断する。 次に、ティエリアが、ニールから渡された宝剣で自分の首の動脈を切断した。 そして、二人は、光に包まれ、船と一緒に沈んでいく。 「愛しています・・・永遠に・・・・」 「俺も愛してる・・・永遠に・・・・」 「次にあったときは、きっと幸せに・・・・」 「なれるさ・・・幸せに・・・・」 「お母様ーーーー!!」 リジェネの絶叫は、蒼い海に吸い込まれていった。 二人は、蒼い海の水底に消えていった。 どんなに、お上の兵や船子たちが探しても、その遺体があがることはなかった。 きっと、フカ(サメ)に食われたのだろうと、皆諦めた。 お上はそれから間もなく崩御し、リジェネが次の皇帝となった。お上となったリジェネは、亡き母の遺言通りに法律を変えた。中性をお上に献上することを止めさせた。不幸に生まれた中性だけを保護し、大切に育て、そして恋仲のものができると結婚させてやった。 ティエリアとニールは、今も海の底で眠っている。 蒼い海の底で、二人は手を繋いだまま、ずっとずっと。 そして、二人は翼を広げて、海から飛び立つ。 この閉ざされた世界から、開かれた世界へと。 いつかいつか、きっときっと、桜の花が咲くその下でもう一度出会おう。 何度でも何度でも巡り合う。 きっと。 どんなに時間がかかってもいい。 もう一度、この世界でめぐり合い、愛し合うのだ。 今度こそ、引き裂かれることなく幸せになれますように。 そんな祈りをこめて、二人は海の中でまどろみながら、次の時代を待つ。 次に会うために、魂は飛んでいった。 吉原に売られ、やがて聖女と呼ばれたティエリア。女衒のニール。全てはそこからはじまった。 次は、どんなはじまりだろうね? 蒼い海の底で、二人は手を繋ぎながら永遠に眠り続ける。 そう、永遠の愛を誓ったから。 二人の間を裂くものは、もうこの世界の何処にも存在しない。 おやすみ。 おやすみ。 いつかまた。 会おう。 桜の木の下で。 NEXT |