彼の言葉







世界が壊れていく。ああ、二人の愛が。二人がこれまで築いてきた螺旋の運命が。
まるで花畑の花が全て散り終わるその瞬間のように。
世界が壊れていく。

命の灯火が静かにゆっくりと溶けていく。
ロックオンは、地球に手を伸ばして、微笑んだ。綺麗なエメラルドの瞳。綺麗すぎてもう何よりも透明で。
「なぁ・・・・こんな世界で、お前ら、満足か?俺はやだね」

走馬灯が頭を横切る。
:浮かんでいくのは、家族の顔・・・そして、かけがえもなく大切だった。
宝物ように。子供が胸をときめかせて大切にしていた、硝子細工のオルゴールのような。
誰よりも愛していたティエリア。
ティエリア。ティエリア。ティエリア。

ああ、どうか泣かないでくれ。
世界が壊れていく瞬間がやってくる。二人の愛は、ロックオンの魂が召されることで終わるのだ。
愛しいる。
それは真実。それはもしかしたら二人にとっては永遠。
この愛は、終わらないのかもしれない。片方が失われても、その愛は片方が生きている限り、喪失を抱いたままそのまま愛は続くのかもしれない。

「愛してるよ」

ロックオンは、エメラルドの光をまとって宇(そら)へ堕ちて、堕ちて。
 そして、静謐が刻み込まれる。
絵画のように止まった時間。瞬く星たちの流す涙が、一瞬だけ弾けて見えた。花火のように、命というものが失われる瞬間、ゆらゆらと炎が揺れた。

 「ロックオ・・・」

 ティエリアは泣いていた。
手も届かない、その場所へせいいっぱい手を伸ばす。もう、彼は何処にもいないのに。
頭がずっしりと重く、気だるい。
何故自分は生きているのか。彼はいなくなってしまったのに。
自分は本当に今生きているのかを確認するために、呼吸してみるが、呼吸も心臓が
鼓動しているのかさえ分からなかった。
確かに心臓は動いているし、呼吸している音は耳に入ってくるし、しんとした静寂の中でも自分が生きている証であろう音は聞こえてくる。

バーチェの機体の手が、ロックオンに向かって伸ばされる。
でも、届かない。
 弾けるエメラルドの光。
 愛は、真実だから。
「愛してるよ」
幻聴のように繰り返される彼の言葉を耳に抱いたまま、ティエリアは目を閉じ、意識を完全に失って、頭から流血したまま座席に全てを委ね、彼に会うことだけを祈って、死を求めた。