マリナは、刹那からもらった超小型パソコンの電源を入れた。 刹那からのメッセージが入っている。 (あけまして、おめでとう。どうか、今年もマリナ・イスマイールに幸福が訪れように、心から祈る) それに、マリナは慣れない手つきでタイピングしていく。 カタカタという音が、ゆっくりと時間の流れとともに鳴り響く。 (あけましておめでとう、刹那。あなたと出会える日を、心待ちにしているわ) (今は、まだ戦況が混乱していて、とてもではないが、トレミーが地球に降りることはできない。当分先になりそうだ。すまない) (いいの。こうして、刹那と言葉をかわせるだけでも、私はとても幸せよ) (マリナの着物姿が見たかった) (着物?何かしらそれは?) (俺が住んでいた日本という国の、伝統ある衣装だ。マリナの黒い髪には、きっと紅い着物が映えるだろう。髪を綺麗に結い上げて、そこに髪飾りをさして、二人で神社にお参りにいきたかった。昔、ガンダムマイスターたちと一緒に、初詣にいったんだ。とても楽しかった) (私も、刹那と一緒に初詣に行ってみたいわ。着物という衣装も着てみたい) (マリナには、中東の衣服も似合うが、きっと着物も似合う) (ありがとう、刹那。いつか、一緒に着物をきて、初詣をした後に、神社にお参りしましょうね) (俺の願いは一つだけだ。マリナが幸福であるように。それだけが、俺の願いだ) (私も、刹那の幸福を願っているわ) (マリナのブルーサファイアの瞳がまた見たい) (私も、刹那のルビーの瞳が見たいわ) (俺たちの瞳は、蒼と真紅で双極だな) (そうね) (いつか、マリナにブルーサファイアをあしらった髪飾りをプレゼントしよう。絶対に、似合う) (ありがとう、その気持ちだけでもうれしいわ、刹那) 「マリナ?まだ起きているの?早く寝なさい」 「シーリン」 「また、宇宙にいる例のぼうやとやりとりをしているの。甘い夢は捨てなさい、マリナ。あなたはアザディズタンの皇女よ。国を再建し、いつかしかるべき身分の相手と結婚するのよ」 「シーリン・・・・」 シーリンは、容赦なかった。 「その恋は、破滅しかもたらさないわ。CBのガンダムマイシターと恋愛だなんて、今からでも遅くないわ、止めなさい」 マリナは強く首を横に振った。 「仕方のない子」 「シーリン?」 シーリンが、そっとマリナを抱き寄せた。 自分よりも豊満な胸に顔をうめて、マリナは微笑んだ。 「あなたの幸せが、私の幸せよ。そのぼうやと、早くまた出会えるといいわね」 「ええ」 シーリンは、言葉はきついがとても優しい女性だ。 それは、長く一緒に暮らしてきたマリナが一番知っていた。 マリナから、唯一刹那とコンタクトできる超小型パソコンを取り上げる真似もしない。 超小型パソコンを見ると、画像が送られてきていた。 ガンダムマイスター四人が並び、強い意志で立っていた。 刹那の隣には、ティエリアが立っている。二人は手を繋いでいた。 それに、戸惑うことはもうない。 ティエリアは隣のライルと手を繋いでいた。そして、ライルはアレルヤと手を繋いでいた。 深い信頼が、そこに見えた。 (刹那はよい仲間をもったわね) (ああ。俺には勿体ないくらいの仲間だ) (ティエリアさんとは、うまくやっている?) (ああ。ティエリアと俺は比翼の鳥のようなものだからな。ティエリアは最近ライルと仲がいい) (そう) (早く、マリナに会いたい) (私もよ。愛しているわ、刹那) (俺も愛している、マリナ) 「なんだ、またマリナ姫と会話をしていたのか」 廊下でずっと立ち止まっていた刹那に、ティエリアが声をかける。 「ああ。愛のメッセージを送っていた」 「はやく、トレミーが地球に降りれる日がくるといいな。君のお姫様は、これからいくつもの難題を抱え込んでいくだろうが、あの女性なら強く立ち向かうだろう」 「ああ。マリナ・イスマイールはそんな女性だ」 「君たちが、正直羨ましいよ」 「ティエリア?」 ティエリアは哀しそうに目を伏せた。 愛し合える相手がいる。 愛を囁ける相手がいる。 それが、たとえ遠く離れいても、相手は生きているのだから。 「なんでもない。アレルヤとライルが待っている。いこうか」 「ああ」 刹那は、ティエリアと並んで歩きだした。 ティエリアは立ち止まらない。 愛を囁く相手を失ってしまったけれど。 それでも、歩き続ける。 それが、愛した人の願いでもあるのだから。 並んで、二人は歩き出した。 一方、地球の地上では、マリナがシーリンと並び夜空を見上げていた。 「この中東を一緒に立て直しましょう!」 シーリンの強い言葉に頷きつつも、ブルーサファイアの瞳が星を見上げる。 星が、堕ちる。 マリナは、小型コンピュータを手にしたまま、早く刹那に会えるようにと心から願うのだった。 |