煙草の味







「苦い」
ライルが吸っていた煙草を奪って、ティエリアはその味に眉を顰める。
咽ることはなかったが、その煙を肺に入れたとき苦いと思った。こんな煙草の何処がおいしいというのか。特に成人男性は好んで煙草を吸ったりする。
「これを吸い始めたのはいつですか」
「中学の時」
「へぇ。優等生を演じて、裏でニールと比べられるのを悔しがって?」
ティエリアの言葉は、ぐさりとライルの心臓に突き刺さる。
「ボロボロに犯してやろうか、お前」
「あなたにはできませんよ。あなたは、ニールの弟であるという自覚がある。兄が大切にしたものを壊せない」
確かにその通りだった。ライルには、ティエリアを汚し壊すことなどできない。
あくまで肉体関係は抵抗がなかったので同意の上ということになる。
「っとに、なんだよお前。天使みたいな顔して、時折悪魔みたいだ」
「人間、ですから」
「は?」
「僕は人間です。天使でも悪魔でもありません。人間とは、こんな生き物でしょう?感情によって、表情を変えて人に接する態度も変わる」
それはそうだ。正論だが。
「僕を、人間にしてくれたのはロックオン、ニールだ。見た目が綺麗だからと、それで僕は終わりではありません。僕の中にだって醜いものはいっぱいある」
またライルの煙草を吸って、ティエリアは慣れたようにその煙草の火を消した。

「好きでした」
「ああ?」
「ロックオンも、煙草が好きでした。健康に悪いからって、僕の前では吸わなかったけれど。これ、あの人が吸っていたのと同じメーカー・・・・」
「だから、なんだよ」
「・・・・・・・・知るものか!こんな感情なんて、いらない!!」
ティエリアは、涙を零して、尖った爪で自分の腕を引っ掻く。
「おい、やめろよ」
「こんな感情、知りたくなかった!!」
手をまとめて上にして、その石榴色の瞳を見る。
「どんな感情を?」
「孤独という、感情を」
「そりゃ・・・・人間誰でも最後は一人なんだから」
「あの人は、帰ってくると約束して・・・・帰ってこなかった。僕に、ハロに帰ってくると約束する録音まで残して・・・・なのに、帰ってこな」
「ティエリア」
ニールと同じ声で呼ばれて、本当に錯覚を起こしそうになる。
でも、ティエリアはライルが一番嫌がる、ライルの中にニールを求めない。
ティエリアは少し泣くと落ち着いたようだった。
「すみません。みっともないことを・・・」
「俺のほうがよっぽどみっともねーよ。アニュー失ってまたお前に手を出して。魂ぬけたようにしばらくアニューの名前だけ呼んでないてた。よっぽどみっともねぇ」
「でも、それだけ愛していたから」
「俺たちの愛って、似てるよな。失って。とても大切で・・・・失うなんて思ってもみなかった。想像さえしていなかった」

ライルは、また煙草を取り出して火をつける。
ティエリアが、煙草を取り出して口に咥える。ライルは目を細めた。
ライルがつけた煙草に煙草を近づけて火を灯す。サラサラと紫紺の髪が零れる音がした。

煙草の味は、やっぱり苦かった。