夏休みも終わり間近になった週、ティエリアとリジェネの両親は、ニール、ライル、刹那もつれて皆で家族旅行を、毎年のように行っているせいもあり、去年はアジア観光だったが、今年は所有している南の島にバカンスに出ることになった。 「はーい準備はいい、私のかわいい子供たちー」 美しく着飾った夫人は、どう見てもまだ三十路をいくつかいっているかいっていないかという若さに見えた。これがティエリアとリジェネの母親というのだから、ある意味納得もいくし驚きもある。実年齢は夫と共に42歳である。若作り、というものをしなくても、自然と童顔のせいかとてもかわいくいて若く見える。同年代の女性から見れば羨ましすぎるだろう。 エステはかかさず、体系が崩れることなく若いままの美貌を残した夫人は天然ボケでもあった。流石ティエリアとリジェネの母と、納得ができるようなボケ加減。 「ハイ並んで!点呼とるわよー!子供たちの点呼とるわよー!はい私1」 子供たちの点呼をとるのに、なぜ母親のあなたが1なのだとつっこみたい。 「2〜!」 ティエリアは、ジャボテンダーを背中にくくりつけて、寝ぼけ眼でいつもの、母親の点呼という、普通に数えればいいだろうに、この母親・・・ルージュ夫人は、点呼が好きだった。 「3」 ニールが素直に答える。 「4」 ライルも素直。 「5」 刹那はこんな時もガンプラを手放さない。ガンプラと共に南の島にいくつもりらしい。 「17」 「じゃ、僕8!」 リジェネはどうでもよさように、適当な番号を答える。 その隣では、ルージュ夫人の旦那でティエリアとリジェネの父であるリーダリア侯爵が、背中にティエリアと同じようにジャボテンダーをくくりつけて、びしっと点呼をしながら妻に敬礼した。 「あら。あら・・・?ええと・・・・全員で18?9?あら、どっちかしら」 ルージュ夫人はおっとりと微笑みを浮かべて、あなたと、リーダリア侯爵を呼ぶ。 「ティエリアちゃんのジャボテンダーが7で、刹那ちゃんのガンプラが8で、あなたが背負っている予備のジャボテンダーが9で、あなたが10で・・・・あらら?おかしいわね。子供の数は5人。5人も多いわ!!」 真面目に困り出すのだから、ルージュ夫人は天然ボケとしかいいようがない。 自分まで点呼の数にいれて、夫までいれて、はてはジャボテンダーとかガンプラまで数えたら、それは多くなるだろう。 「まぁなんでもいいわ。はい、子供は10人と。じゃあ、皆用意はできたわねー」 「ママ、ママ、僕がまだ用意できてないであります!」 「あらこまったわねあなた。はやく用意してきて」 夫は大慌てでメイドに手伝われて着替えとかトランクにいれる。その間も背中にはジャボテンダーをくくりつけているリーダリア侯爵。これで上流の名貴族なのだから。 「おっと、ジャボテンダー君も荷物につめないと」 背中からジャボテンダーを外して、荷物の中に入れられるジャボテンダー。ちなみにこのジャボテンダーはリーダリア侯爵のジャボテンダーであって、ティエリアのジャボテンダーではない。なので、ティエリアも文句は言わない。 父子揃ってジャボテンダーバカなのが、この親子の特徴でもある。 メイドたちが、大慌てで自家用飛行機に、荷物を積み込んでいく。 1週間の旅になるので、着替えも多い。 自家用飛行機は一台では足りなかった。いつも料理をつくってくれるシェフ軍団から、メイド数人、メイド長、それに執事まで連れた家族旅行。 これって、家族旅行っていうより団体旅行じゃないの?ってみんな思ったけど、つっこみは入れないことにした。 これが、ティエリアとリジェネの両親の当たり前の家族旅行なのだから。 驚くニール・ライル・刹那は無言で従うしかない。 リーダリア侯爵は、執事と何事か口早に言葉を交わすと、急いで子会社に電話を入れる。完全に仕事を放棄したいが、そういうわけにはいかないものもある。リーダリア侯爵の折半で、契約相手の会社を吸収することになったのだが、その契約は南の島で行われることになった。 自分のことを僕と呼んで、まるで学生のような父は、これでも仕事で忙しいのだ。ルージュ夫人も、夫の仕事のことに関しては何も口出ししない。夫人も夫人で夫と一緒に仕事で世界を周ることが多い。社交界には、ティエリアとリジェネも時折連れていくが、二人は金持ちの集まりのパーティーなんか大嫌いだ。 大抵、婚約者になりたくて近づいてくる、両親の金目当ての、落ちぶれた貴族の令嬢やら御曹司やら成金の子供とかがべたべたと二人の周りを取り囲む。そんな時は、ティエリアとリジェネはルージュ夫人に頼み込んでパーティーを抜け出し、高級車や自家用飛行機で先に家に戻るが常識であった。 わざわざ、「美しいですなぁ」と近づいてくる契約相手の会社の幹部は、自分の息子や娘を紹介し、友人になってほしいと頼み込んでくる。その息子や娘たちに、親は耳打ちで、二人に取り入っていれば、将来役に立つと吹き込まれている連中ばかりだ。 こんな環境ではろくな友人はできない。 何人か友人になった者はいるが、どれも色目を使ってきたり、好きですとかただ容姿と財閥の御曹司と令嬢であるティエリアとリジェネに惚れこむのだ。ティエリアとリジェネを一人の人間として見ることはなく、財閥の付属物としてみてくる視線が大嫌いだった。 大抵は、誕生パーティーに呼ばれても、ティエリアとリジェネで出席しても、またそこで媚びるような視線ばかり注がれて、嫌気がさして友達になれるかもと思った子は、結局金目当てで近づいてきたのだと、そのうちばれるのだ。高価な贈りものばかりしてきて、友達になれたかな?と思った次の瞬間には、ボーイフレンドに、ガールフレンドにしてくれという。それをOKしたら、調子にのってでかい顔をして、いつか結婚しましょうと言い出すのだ。 だから、ティエリアとリジェネはずっと二人きりだった。お互いがいれば、それで何もいらない。 本当に、友達といえる存在に出会ったのはニール、ライル、刹那、アレルヤと出会ってからだった。 |