ハートのストロー







こっくり、こっくり。
ティエリアは、半分眠りかけていた。
ロックオンが、ブラシを片手に綺麗なサラサラの紫紺の髪をとかしていく。
髪をさわられ、すかれる。

ティエリアは目を瞑っていた。
ロックオンに髪を触られるは大好きだった。
他の人間に髪を触られても気持ちよかったが、ロックオンの手が一番気持ちいい。

「こら、ティエリア寝るなよ。今から髪結うんだから」
「ふぁい」
間抜けな声の返事を返す。

一度しっかりと目を開けて、前を向いて鏡を見ていたのに、また気持ちよすぎて眠たくなってくる。
こっくり、こっくり。

ロックオンは、翡翠色のレースが施されたリボンを口にくわえて、ティエリアの髪を両サイドで三つ編にし、そこの鮮やかエメラルド色の飾り布を編みこんだ。
そして、三つ編と一緒に髪を結う。
ツインテールに結って、その上からくちにくわえていたリボンを器用に巻きつけ、ちょうちょ結びにすると背中にたらした。

飾り布もリボンも長く、ティエリアの紫紺の髪が肩で切りそろえられているのをいいことに、まるで本物の髪のように背中に流す。
それはとても自然な形で、とても綺麗にツイテールは両方結われ、飾り布を編みこまれ、リボンを巻きつけられるともう片方も背中に流された。

「ほら、できたぞ。かわいいだろ」
ティエリアに呼びかけるが、反応がない。
すーすー。
静かな寝息だけが聞こえてきた。

そのまま寝かせてやりたかったが、これでは綺麗に髪を結った意味がない。
「起きろ、ティエリア」
「ふぁ〜〜。おはようごじゃいます、ロックオン」
ティエリアは、ちゃんと言葉にしたつもりなのだろうが、寝起きのせいか濁点が一部間違っていた。そんなティエリアに苦笑しながら、ティエリアは軽く伸びをした。そして大きく欠伸をする。

「ロックオンに髪を触られるのは大好きです。あまりに気持ちよすぎて、眠ってしまいます」
「だからって、ほんとに寝るなよ」
「すみません」
鏡にうつる自分の姿をみる。
黒のニットセーターに、黒の半ズボン、上からファーつきの白い長めのベスト。黒のソーニに、太ももの位置まであるベルトがいくつもついた底の厚いブーツ。
ベストはチャックが全快で、腰にはズボンをはいた上にきるとても短いスカートをはいていた。
それだけが極彩色だ。
鏡の中にたつティエリアは、完全な美少女だ。
化粧一つしていない。

ロックオンが買ってくれた服は、ティエリアによく似合った。ロックオンのセンスは本当にいい。ティエリアは、自分の服を買ってくれるを全てロックオンに任せていた。
時折少女趣味のはいったゴシックロリータぽい服を着せられるが、それさえも愛しい人が選んでくれた服だからとティエリアは拒むことなく袖を通す。

いつものように黒のガーネットのついたチョーカーを首につける。
あとは、ロックオンが適当に選んでくれたアクセサリーを身につけた。
「さて、準備は完全だ。出かけるか」
泊まっていたホテルをチェックアウトして、外にでる。
ホテルは国の首都にあって、ホテルの敷地から出ると人が溢れていた。

ティエリアとロックオンは手を繋ぐ。
そして、ティエリアがレストランの看板を指さした。
「喉がかわきました。あのレストランで、少し休憩していきましょう」
けっこう歩いたので、歩き疲れたんだろうと、ロックオンはティエリアと並んで小さなレストランに入る。とたんに集まる視線。あまりのかわいいティエリアの格好に、一瞬人々が固まる。
それにロックオンが咳払いすると、人々はいそいそとティエリアから視線を外した。
街中で、同じようにティエリアは人の注目を集めた。慣れてしまっているティエリアであるし、ロックオンももう慣れてしまった。
でも、ここまで視線が集まり、ティエリアをつま先から頭の上まで値踏みするような視線に耐えられなかったロックオンは、警戒の意味をこめてわざと咳払いした。

「二名様でございますね。席に案内いたします」
あらわれたウェイトトレスが、ティエリアの美貌に驚きつつも、二人を席に案内してくれた。
「メンソーダを一つ。それから、苺パフェを二つ」
「はい、かしこまりました」
「そちらも、ご注文がお決まりですか?」
「ああ。海鮮ピザをSサイズで。あとはコーンポタージュスープと、コーヒーを一つ」
「かしこまりました。しばしお待ちください」
ウェイトレスは、店の奥に消えた。

「お待たせしまた。ご注文の品をもってきました」
テーブルに、注文した品が次々と並べられる。
ティエリアの目の前に苺パフェが二つならんだが、その片方をずいっとロックオンのほうにおしやった。
「あなたの分です。あなたも食べてください」
「ああ、分かったよ」
パフェは嫌いではない。

メロンソーダーには、ハート型のストローがさしてあった。
「どうする、店員にいってかえてもらうか?」
「このままで構いません。もう一つのストローを使うのはあなたです」
「はは、参ったな」
そういうわりには、とても嬉しそうだ。

恋人同士の証であるように、メロンソーダに入れられたハートのストローで二人して中身を飲んでいく。

その光景に、ウェイトレスがガッツポーズをとった。
ティエリアが頼んだわけでもない。
ウェイトレスは、見目のいい仲良さそうなカップルをより盛り上げるためにサービスをしたのだ。

そして、目論み通りとなる。
ロックオンは、海鮮ピザを自分の手でティエリアに食べさせてあげる。

微笑ましいカップルに、誰もが幸福な気分を分け与えられて、自然と微笑んでいた。