贈りもの(夏期休暇)







「宅配便でーす」
「はい」
ティエリアは玄関のドアをあけて、荷物をうけとって、そしてサインをした。
刹那はまだ2階で眠っている。
こんな早朝から、宅配とは業者も忙しそうだ。それにしても、この荷物の量はなんだろうか。
一人では持ちきれず、ロックオンが持って家の中に戻る。
「刹那宛だと思うけど・・・ええと?」
メッセージカードがついていた。
蓋をあけると、どれもこれも薔薇の花束だった。
「拝啓、私の親愛なる眠り姫様へ。君の操はしかといただいた・・・・ハム仮面か。妄想もここまでくると、哀れだな」
「ちょ、俺の操〜〜〜!!!」
ロックオンは、白や真紅、紫、黄色といった薔薇の花束に囲まれて頭を抱えていた。
「拝啓眠り姫へ、CB発行の同人誌を読ませてもらった。私とかけおちした後、ピーでピーでズキューンバキューンになるのだな」
「ちょ、そんな続きあるの!?」
「ああ、ミス・スメラギが個人誌で出したこの前発行したギャグ本の続きで、ハム仮面×ロックオン。18菌です」
「NO!!」
「確かここらへんに・・・ありました。読みます?」
ティエリアは、がさこそと本棚を漁って、その続きの同人誌を見つけた。
刹那の本棚は同人誌まみれ。棚の上にはガンプラがガンダムもプラモデルが並んでいるし、いったいどういう生活おくってるんだとつっこみを入れたくなるのだが、そもそもその同人誌を発行しているのがCBのミス・スメラギと自分の恋人であるティエリアなのだから、カオスだ。

ロックオンは恐る恐る、ティエリアが差し出した同人誌の中身を見て激しく後悔した。
ピーでピーでピーだった。
「もう俺、お嫁にいけない・・・・」
「ハム仮面が、お嫁さんにしてくれるそうですよ」
「ティエリアー!!」
「あははは、冗談です」
「これ、まじでCBのみんなも読んでるのか?」
「そりゃそうでしょうね。一応、サークル名CBですし。CBの正式出版物になるんですよ。同人誌でも」
「うおおおお、俺もうトレミーに戻れない!!」
シクシクと泣き出していじけるロックオン。
薔薇の花を、とりあえず花瓶に生けるところは、いくらハム仮面からの贈り物でも、ものを無駄にできないという立派な精神からだろう。
「僕が、ハム仮面に文句いっときますね」
ティエリアは携帯をとりだすと、登録されている番号をおして、電話をかけた。
「ハム仮面か。いや、用はない。ロックオンに贈りものなどするな。迷惑だ。刹那?ああ、寝ている。刹那が電話にでない?そりゃストーカーしてたら普通でないだろう。少年ハァハァ?妄想もたいがいにしとけ。刹那に何かしたら殺すから。ロックオンにも手を出したら殺す。じゃあ」
ピッとボタンを切って、ティエリアはにこりと微笑んだ。
「はい、これで大丈夫です」
「ちょ、お前ハム仮面の電話番号知ってるのか!?」
「しつこくファンレターと一緒に、電話番号とアドレスが記載されてました。刹那へのストーカー行為をやめさせるために登録しましたが、問題ありましたか?」
「いや、相手敵だろ。問題ありまくり・・・・」
「でも、ハム仮面は僕が苦手らしいですよ。会ったとたんに銃をぶっぱなしてくるからって」
「お前、一人でハム仮面と会ったことあるのか?危険すぎる!」
ティエリアを抱きしめるロックオンの頭を撫でながら、ティエリアは笑った。楽しくて仕方ないようだった。
「違いますよ。同人の即売会に、ミス・スメラギに売り子として無理やり連れて行かれて。ほら、こんな顔してるから・・その。コスプレとかしなくても、男だろうが女だろうが、サークルに興味がない人も本買っていくんですよ。売り上げは、僕がいると3倍になるそうです。そこにハム仮面がきて・・・いきなり、薔薇の花を押し付けられて美少年よ、私とアバンチュールをなどとほざくので、会場で銃で頭撃ちました。生きてましたけど・・・あれ、どうして死なないんでしょうね。変態だからでしょうか」
「変態だからだろうな」

二階では、刹那が叫んでいた。
「うるさい!二度と電話してくるなこの変態!何が少年ハァハァ合体ハァハァだ!このド変態が!!」
ものに当たる音まで聞こえてくる。
「刹那の携帯の番号まで教えたのか?」
「いいえ。ストーカーですよ、相手は。闇ルートで入手したに決まってるじゃないですか。何度番号かえても、かかってくるらしいですよ。刹那に比べれば、こんなのまだかわいいものですよ。花束なんて」
「・・・・・・・刹那、すげぇ」
ロックオンは、本気で刹那は凄いと思った。そしてティエリアも。
ロックオンは、ハム仮面の矛先がどうか自分にこれ以上向かないようにと、祈るのだった。