ブリーフィングルームの花







ブリーフィングルームで、ティエリアは忘れ名草の鉢植えに霧吹きで水をやっていた。
刹那がやってきて、その作業をじっと見つめていた。
「どうした。見ていても、楽しくはないだろう」
「いや、よく飽きないなと思って」
「飽きるわけがないだろう。ロックオンからもらった花たちだ」
「そうか・・・・」
刹那は、忘れ名草の鉢植えをのぞきこむ。
「この花の名は?」
「忘れ名草」
「ああ、お前が一番好きな花か」
「一番か、どうかろうな」
水色の小さな花。空の色のようで好きだけど、何よりもその花言葉が「私を忘れないで」という切ないものだから、きっと好きになったのだろう。
雑草に混じれば、顧みられないほどに背丈が小さく、花も小さい。
もっと美しい綺麗な花は世界にたくさんある。
「お前には、薔薇が似合うと思うんだが。もしくは百合」
「僕は・・・・忘れ名草になりたいんだ」
霧吹きで水をやりおえて、ティエリアはぽつりとそうもらした。
「どうして?」
「きっと、ずっと覚えててもらえるから」

刹那は、ティエリアを抱き寄せると、その頭を撫でた。
「大丈夫。覚えているよ、ロックオンは。絶対に」
「そうだと、いいな」
もう死んでしまったロックオン。
今のロックオンとは違う。本名はニール。
ティエリアが唯一心から愛した人。
「なぁ、ティエリア」
「なんだ」
「俺も、忘れ名草になったら、お前にずっと覚えててもらえるのか」
ティエリアはクスリと笑うと、刹那の手をおしのける。
「そんなことしなくても、覚えているよ。ずっと、ずっと。仲間のことは絶対に、どんなことがあっても忘れない」
忘れたくない。
たとえこの体が朽ち果てても。
いつか、その時が来ても、覚えておこう。
この、かげかえのない大切な時間を。

二人は、ブリーフィングルームの窓の外で、エメラルド色に耀く星を見つけた。
「あの星。まるで、ロックオンみたいだな」
「そうだね」

忘れ名草にたくたように、あの人は覚えててくれているだろうか。
僕のことを。
もう、世界にはいないけれど。