哀しい日







「あれ、教官殿は?」
ライルは、会議なのにティエリアがいないことに珍しそうに周囲を見回す。
「ああ、彼は」
アレルヤがいいにくそうに、口ごもる。
「なんだよ。なんかあったのか」
「彼は、その」
「ティエリアは具合が悪い。だから、今回は出席しない」
「なんだ、そうなのか。あとで、お見舞いにでもいったほうがいいかな?」
「一人にしといてやれ。眠っている」
「へいへい」
ライルは、それ以上その話題に触れようとはしなかった。
そのまま会議は進み、解散となる。
「ライル、誕生日おめでとう」
「ありがとさん」
「おめでとう」
刹那も言葉をかける。
アロウズと敵対した状況では、プレゼントらしいプレゼントもできないが。刹那は、忘れ名草の押し花をライルにあげた。
「ああ、これ、忘れ名草?教官殿が大好きな」
「ティエリアの手作りだ。ティエリアの分も、入っている」
「ありがとさん」
ライルは押し花なんてもらっても嬉しくないだろうに、少し嬉しそうだった。
こうやって、仲間から祝ってもらえることなんて今まで経験がないのだ。

「ねぇ、刹那」
刹那はアレルヤに呼び止められて、足を止める。
「なんだ」
「彼は、やっぱり」
「ああ。あの部屋にいる」
「そう。じゃあ、夕食はその部屋に持っていくね」
「いや、俺が持っていくのでいい」
「そう。ごめんね。何もできなくて」
「俺も、何もできない」

今日は。
彼の、誕生日でもある。
用意された押し花は2つ。ライルの分とニールの分。

ティエリアは、かつてロックオンが使っていた部屋で毛布を被り、ベッドの上で膝を抱えていた。
「誕生日おめでとう、ロックオン・・・・・」
涙は零さない。
もう、零さないと決めたから。
泣かないと、決めたから。
コンコンとドアがのっくされて、外で刹那の声が聞こえた。
「夕食、この部屋の外に置いておくから。食べる気があったら、食べてくれ」
「すまない。世話をかける」
「いや・・・・・」
ティエリアは、それからすぐに夕食も食べずセラヴィーに乗り込むと、忘れ名草の押し花を宇宙に流した。
「こうするしか、渡せないんです」
宇宙にいる彼。
宇宙で死んだ彼。
宇宙に流しても、それが受け取ってもらえることなのかは分からないけど。
「また、きます」
彼が死んだ地球が見えるグランジェで、ティエリアは蒼い地球を見ると、コックピットを閉めた。

この前みつけた、エメラルド色の星がひっそりと耀いていた。
ティエリアはセラヴィーをトレミーにむけて発進する。

本当は、とても嬉しい日。
でも、今ではとても哀しい日。
彼のいない、彼の誕生日。
「誕生日、おめでとう」
緩やかに世界に消えていく言葉。
届いていたら、いいな。