哀しい日・続







「夕飯・・・・やっぱり、食べなかったんだな」
トレイに残された夕飯は、全く手がつけられた様子はなかった。
泣いているのだろうかと心配になって、ドアのロックを解除してロックオンが使っていた部屋に入ると、ティエリアは毛布を被って膝を抱えてたまま、眠っていた。
「無茶を、する・・・・」
その体を抱き上げて、ベッドに横たえると、毛布をかけてやる。
その体が冷え切っていることに眉を顰め、空調の温度をあげて、自分の部屋からも毛布をとってくると、布団と一緒にかぶせてやった。
「・・・・・・ごめんなさ・・・・ロックオン・・・・」
ふとそんな声が聞こえて、刹那はティエリアが少しだけ流した涙を手で拭い去る。
「あれは、お前のせいじゃない。俺のせいでもない。誰のせいでもない。ロックオンのせいでもない・・・・誰が悪いんでもない。しいていうなら、あの男が」
アリー・アルサーシェスのせいだ。
あいつさえいなければ、ロックオンは今もティエリアの隣にいて微笑んでいたことだろう。
彼が、あんな選択をとったのはあの男のせいだ。
ロックオンは生きて戻るつもりだった。

「ティエリア、ネテル、ティエリア、ネテル」
毛布の下からハロがごそごそと飛び出してきて、刹那のまわりをとんだ。
「ああ、寝てるんだ」
ハロをさわると、録音が再生されたあとがあった。つい最近だ。データの閲覧日が昨日になっていた。
「・・・・・・・・・本当は、もっとなきたいんだろう?」
頭を撫でていると、ティエリアの眼鏡が邪魔だなと思い、外してベッドの脇においた。
「守るから。俺が、ロックオンの分まで」
よく眠っている。
寝息は穏かだ。
でも、寝顔は哀しそうだった。
寝ているのに、まるで捨てられた子供のような顔をしている。

刹那は、ティエリアの髪を撫でたあと、唇にキスをした。
触れるだけの、キス。
刹那とティエリアは親友。でも、そこからさらに擬似恋人、体を繋げることだってある。
それが、ロックオンに対する背徳だとは思わない。
彼の分まで、守ろうと決意した。
ロックオンの位置に、今は刹那がいる。
それを、ティエリアも望んだから。
ティエリアは、人一倍寂しがりやだ。誰かと一緒に寝るのが好きで、側にいないと不安になるんだそうだ。
「今日は、哀しい日」
窓の外をみると、エメラルド色の星が瞬いている。
「なぁ。ロックオン、そこで見ているか。俺が守るから。あんたも、守ってくれ」

ティエリアは夕食のトレイを持って、食堂に戻ると、そのまま自室に戻って自分も眠りにつく。
かつては、とても楽しい日だった。
みんなで、マイスター四人でバカみたいに騒いで、ロックオンをからかって、そして祝って、はしゃいで、トレミー中のみんなでわいわいやっていた。
もう、それは記憶の中のこと。
でも、まだ鮮明でクリア。
薄れていくことがない。
それほど、ロックオンは刹那にとっても大切な人だった。
家族をなくしたようなものだ。

「おやすみ、ロックオン」
窓から見える翠の星にそう言葉をかけて、目を一度閉じると、刹那は真紅の瞳で窓から見える宇宙を見る。
この星のどこかで彼は今も眠っている。
見守ってくれている、きっと。
そんな気がした。

哀しい日は終わり、日つげはかわっている。
でも、哀しい日はまた来年もやってくる。
ずっと、ずっと。
この日は、哀しい日。