紅葉の押し花U







「ああ・・・・紅葉の押し花・・・懐かしいな」
ロックオンの部屋を整理していると、引き出しからそれがでてきて、ティエリアはそれを手にとって天井に透かせてみせた。
「綺麗な秋の色」人に愛され、人になった僕。
あの頃が懐かしい。
そう、こんな綺麗な残骸となって残ればいいと祈っていたあの頃。
残骸、という言葉が自分らしいと思った。
人ではない僕。


ロックオンを愛して、ロックオンに愛された。
幸せだった。
いつまでも続くと、夢みたいに思っていた。
どうか壊れないようにと、大切にしていたたくさんの思い出。たくさんの贈り物。たくさんの記憶。

どれも、彼が宇宙で散ってしまったことで壊れてしまった。
残ったのは、そう、残骸だ。
彼がくれた愛、彼がくれた思い出、彼がくれた贈り物、彼と一緒にいた記憶。
全ては過去のもの。
現在のものはない。
もう、この世界のどこにも彼はいないのだから。
僕を守って、死んでしまった。僕が殺したようなものだ。
ロックオンの右目が見えてさえいれば、きっと彼は死ぬことなどなかった。
だって、ロックオンはハロに「必ず帰ってくる」と言葉を残していったのだから。

「ららら〜〜〜」
ティエリアは、ロックオンの部屋のベッドに横になり、紅葉の髪飾りを自分で髪に留めると、綺麗にできた押し花の数々をいれたブックのページを開いていく。
「ららら〜〜〜」
綺麗な歌声だけが残る。
彼のいなくなった、彼の部屋。
お日様の匂いだけが残っている。

朽ちるはずだったこの艦を、新しいトレミーとして今修理している。
大幅に変わるだろう。
でも、この部屋だけはそのまま、絶対に残していくのだ。
押し花のように、せめて形だけでも、愛の残骸を。

「ティエリア、ナイテル、ナイテル?」
パタパタと、オレンジのロックオンの相棒がやってきて、ティエリアの周りをとんだ。
「ううん・・・・思い出してるだけだよ、ハロ。彼は、そう、僕の心の中にいるから・・・・」
彼は、世界から消えてしまった。
でも、彼の愛が消えたわけではない。
こんなにも、胸が締め付けられるくらいに今でも愛しているのだから。
そう、僕がいる限り、この愛もきっと永遠。
パサリと、ティエリアの手から紅葉の押し花が床に落ちた。

綺麗な残骸となって、この世界に残るのだ。
僕という存在と一緒に。