14話補完小説「歌声」







撃ち抜かれた右腕が熱い。
じわじわと血を広げていく。
ノーマルスーツを血で染め上げながら、刹那はダブルオーライザーで空をかけぬける。
「アリー・アル・サーシェス!」
敵を打ち落とそうと、ビームをいくつも発射する。

アリーの機体が、何かの航空物体と接触しそうになるのを、間髪をいれて阻止する。

「ハァハァハァ」

ドクンドクンと、心臓が大きく脈打っていた。

世界の歪みの中心に、俺は立っていたのか。

思考をすぐに払いのけ、刹那は唸る。
まるで手負いの猛獣だ。

ダブルオーライザーの粒子が満ちる。
リボンズ・アルマークと名乗った男は消えてしまった。
今は、目の前にいるアリーを倒すことだけを考えろ。

「俺は、俺の意思でガンダムマイスターになったんだ!」
操縦桿を握り締める。
傷口が火傷したように熱く疼く。

ダブルオーライザーが、アリーのサブガンアーチャーを裂いた。

まだだ。
まだ、ここで終わるわけにはいかない。
遠のきかける意識を、歯を食いしばって耐える。

その時、歌声が聞こえた。
歌姫のような唄。
子供の声もまじっている。
その声は、誰でもない愛しいマリナのもの。

「なぜ、マリナの声が?」

まるで、世界を満たすように静かにマリナの歌声は響いた。
刹那は、ダブルオーライザーで空を切る。
アリーの機体が遠のいていく。
そして、時期に意識が遠のいていくのを感じていた。

マリナ。
いつか迎えにいくと約束した。
だが、まだ俺はやり残したことがたくさんある。

マリナ。

刹那は、虚空に向かって手を伸ばしていた。