勇者なガンダムと魔王な俺様A







「いってらっしゃい、勇者様!!」
村のみんなに応援されて、こうして勇者刹那は旅立った。
仲間たちと共に。

刹那は眠そうに馬車の中で欠伸をしていた。
モンスターとの戦闘が始まると、モンスター退治だとはりきって、アレルヤが真っ先に馬車から飛び降りてモンスターを一掃してしまうのである。
ちなみにアレルヤも勇者だ。
パーティーはもう2人いる。ティエリアという名の中性の少女とも少年ともつかない存在。ティエリアも勇者だ。
あと一人は、ライルという名の銃を武器にする勇者。
とりあえず、ティエリアは激しくツッコミを入れたかったので、つっこみことにした。
「あのさ、何で僕たちみんな勇者なわけ?職業、分けたほうがいいんじゃのか?」
「何をいう。勇者は最強だ。勇者はなまけていても勇者。勇気がなくても勇者。どうでもよくっても勇者だ」
「それ全部、刹那に当てはまるな。だらけれるし勇気っていうか威勢がないし、どうでもよさそうだ」
ライルが、銃の手入れをしながら、全く戦うことのない刹那を指差した。
「そうだ。俺はどうでもいい。怠けている。勇気などない」
「否定しろよ!」
「嫌だ!」
「お前はアホか!」
「勇者はアホだ!!アホじゃないとやってられない!!」
「つまりあれか、俺たちは凄いアホのPTってことか!?」
「そうだ」
真面目な表情で頷く刹那を、ティエリアが黒い本で殴った。
「今角で殴ったな」
「当たり前だ。僕までアホにされるなんて。転職だ。さぁ、ダーマ神殿へ!」
「そうだ、ライルはホイミスライムだな」
「またかよ!!」
ライルはいつしかドラクエの仮想ゲームの中で常にホイミスライムだったことを思い出した。
ホイミスライム。かわいいが、MPが無限。でも銃で攻撃なんてできないし、ベホマベホマと連呼する。ベホマしかしゃべれない。なんて存在だろうか。究極の癒し兵器。
「そうだね、ライルはホイミスライムが似合ってるかも」
アレルヤまで同意した。
「ここドラクエじゃねーだろ!ホイミスライムなんているか!」
「まぁ、確かにそれもそうだ」
ということで、彼らは適当に転職した。
ダーマ神殿だってこの世界にはないのだから。それぞれに職業を補佐するギルドにいき、普通は許可証をもらてギルドの長の下で転職するのだが、そんなまどろっこしいことなんてしてられない。
なので、ギルドには刹那が送った使い魔で勝手になるよってメッセージだけを送った。
アレルヤは格闘家でもあり、神聖魔法も使えるモンクを、ティエリアはすでにウィザードの職をマスターしていたのでハイウィザードに、そしてライルはホイミスライムになった。
「そしてライルはホイミスライムになった」
台本を棒読みしていた刹那をハリセンで殴り倒してから、ライルは改めて、ガンスリンガー、銃の専門職についた。というか、今までもずっとガンスリンガーで、いきなり勇者に村の長老に強制的に転職させられたのが、やはりガンスリンガーが好きだ。
勇者は無敵の存在であるので、羨ましくはあるがガンスリンガーでないと使えない技が多数あるので、ガンスリンガーにした。
「じゃあ俺は無論」
「「「ガンダムはダメ」」」
「しくしく・・・・」
俺はガンダム、という刹那の言葉を先読みして駄目押しをしておいてやった。
刹那はガンダムが好きで、何かとガンダムという謎の職業につきたがる。
「仕方ない。サブ職をガンダムでいこう。メインは勇者で」
刹那は勇者のままいるらしい。刹那のプロフィールを開くと、勇者なガンダム、になっていた。本当に、何処までもガンダムの好きな青年だ。
年齢はティエリアが17、刹那が21、アレルヤが24にライルが29。
ライルにもうすぐ三十路だなって昨日、肩をたたいて宥めていた刹那はライルにハリセンで華麗に頭をはたかれていた。なので、他の皆はつっこまない方向にしている。

こうして、刹那を勇者とした一向は物語を進める。魔王を倒すのだ。

「ちょっと、あんたら何すっかね!いきなり扉あけて入ってきて!せめてチャイムくらいならせ!つか不法侵入だぞ!」
「いいんだ。俺は勇者だから。勝手に人の家の扉を開けて中に入ってくる。それは勇者のみの特権だ」
「そうですか、勇者様でいらせられましたか・・・・ってんなこというわけなかとね!!さっさと出ていけ!」
「嫌だ!俺は勇者なガンダムだ!!」
刹那は町につくと、一軒めの民家の扉をいきなりあけて中に入ると、住民が騒ぎ立てるのを無視していろいろと物色していく。
「タンスの中に・・・・3000リラ発見!」
「ちょ、それは生活費だ!返せドロボー!!!」
(3000リラゲット!)
パーティーの頭上に、そう文字が浮かんだ。
「あああ、俺の金が!!」
「違う、これはもう勇者なガンダムの俺の金だ!」
「刹那、この男は一人暮らしのようだ。ベッドの奥にこんなにエロ本があった」
「あああああああ、俺の宝が!!」
「・・・・ティエリア、未成年でしょ。エロ本なんて見ちゃいけません」
「僕は260歳だ。成人している。セララフィスは、成人しても外見は若いままだ」
ティエリアは紫紺の髪をかきあげる。それはサラサラと指の間から零れ落ちていく。エルフのように華奢でとても美しいティエリアは、エルフと同じ亜人種である。セラフィスという、有翼人だ。バサリと背中から一対の純白の翼が飛び出して、自分がセラフィスであること強調するように中身に見せた。
「ああ、ティエリアはそういえば人間じゃなかった。忘れていた」
「背の翼は邪魔なので隠すこともできる。そうすれば、外見はほとんど人間と変わらないから」
セラフィスは珍しい種族だ。浮遊人工大陸エーアドの皇国にのみ住んでおり、滅多に人間社会に降りてこない。こうやって、人間種族の中で生きるセラフィスは貴重であり、そして美しい外見と豊富な知識、人よりも遙かに優れた魔力を持っているため、パーティーの仲間としては頼もしい。
エロ本ゲット!そう、パーティーの頭上に言葉が浮かんだ。
「お、けっこう食料あんな。持っていこうぜ」
今度はライルが冷蔵庫を物色して、亜空間魔法がついている袋に次々と食料を放り込んでいく。
「あああ、俺の食料が!!!お回りさーーーん!!」
住人はついには泣き出して、電話で警察に連絡する。
「きてください、不審者が勝手に家にあがりこんで、物を盗んでいくんです!!」
すぐに、警察はきてくれた。でもきたお回りさんは、刹那PTをしょっぴこうとして「勇者」のバッジを見せられて、
本物の勇者様だとはしゃいで、刹那と握手して帰っていった。
「ふ。勇者と警察は仲良しだ」
「あああ、それは俺の財布ー!!」
財布ゲットと、パーティーの頭上に文字が浮かんだ。(財布をゲットした)
こうして、何か物を入手したり売却したり購入したり、小さなイベントがあるたびに、頭上に文字が出る仕組みになっている。
「けっこう・・・・しょぼいね」
アレルヤが中身を確認する。
「どうやら、ここの住人はエロ本やエロDVD、エロゲームの買いすぎで財産を減らしているようだ。収入も多くないようだし。よし、エログッズは全て没収して、町の道具屋で売却だ!」
(たくさんのエログッズをゲットした)
「「「賛成」」」
「ちょっとおお、俺の生活明日からどうなんのおおおお!!!」
住人は、ガクガク刹那を揺さぶる。
「うるさい。ティエリア、攻撃」

頭上に文字が浮かぶ。
(怒った家の住人が、襲い掛かってきた)
戦闘画面に突入することもなく、家の住人は力尽きた。ティエリアの往復ビンタのダメージが住人のHP(ライフポイント)を上回ったせいで、住人は戦闘不能になった。
「流石ティエリア!往復ビンタ攻撃、凄まじい!」
この往復ビンタを食らうのは、世界でただ一人だけ。ティエリアの恋人である。
ティエリアの恋人は、ある日突然姿を消した。こう書置きを残して。

俺、明日から魔王な俺様になってくる。

ティエリアの怒りといったら凄まじかった。
弟のライルを問い詰めまくった挙句、ライルが闇ネットで購入したレア「魔王になれる闇の宝石ジェノサイド」とやらを兄のニールが見つけ、使ってしまったらしい。
この前の魔王は、数週間前、違う勇者PTに倒されて、今頃は服役中だ。
魔王の職になることは、悪者になること。法律で禁止されているが、その闇の宝石を使ってしまうと魔王になってしまうのだ。
こうして、勇者一行は魔王を探し求める。
無論、恋人であるティエリアもそのPTのメンバーとして。
 



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