愛はなくても







ティエリアは、自分の部屋を抜け出して刹那の部屋の前にきていた。
ロックはかかっていない。
また、いつもの夢を見た。
イオリアに処分だといわれて、目覚めるのだ。
まだ、心臓がドキドキいっている。動悸が止まらない。

僕は、失敗作なんだろうか。
ねぇ、イオリア。
あなたはなぜ、僕を作ったの?

部屋をの扉が、人の体温を感知して自動で空いた。
刹那は、眠っていた。
「刹那、ごめん」
部屋の中に入り、刹那のベッドの傍にくると、刹那に手を伸ばす。
そして、触れようとして、手をひっこめさせた。
暗闇の中、ティエリアの金色の瞳が獣の目のように光っていた。

刹那の眠りの邪魔をしたくない。
ティエリアは、自分の部屋に戻ろうと、身を翻した時。
ティエリアの手首を、刹那が掴んでいた。

「刹那?すまない、眠りを妨げてしまった」
「いいから。布団の中に入れ」
有無を言わさぬ強さで、刹那にぐいっと引かれた。
そのまま、いつものようにティエリアは刹那のベッドにもぐりこむ。
「刹那、怒らないのか」
「何に怒るというんだ」
「だって、毎回毎回、僕は刹那の眠りを妨げている。邪魔をしている」
「構わない」
「でも」
それ以上口にするなとばかりに、刹那の手がティエリアの口を覆った。
そのまま、額にキスをされる。
「ティエリアは人間だ。処分なんてされない。安心して眠れ」
「うん」
刹那の隣に寝そべって、ティエリアはじっと刹那の横顔を見ていた。
ティエリアは、もう遥か昔に肉体の時を止めてしまった。
刹那は、見違えるような美しい青年に成長した。それが、羨ましかった。
できることなら、刹那と並んで年を刻んでいきたい。
それさえも、ティエリアにはできないのだ。

「刹那、ごめんなさい」
ティエリアは、金色に光る目で、ただ刹那をじっと見つめていた。
刹那は、自分が被っていた毛布を、ティエリアに被らせる。
「刹那?」
「ティエリア、いちいち謝るな。俺は、お前を迷惑だなんて思ったことは一度もない」
「そう」
どこまでも優しい刹那。
「目が冴えたか?」
「少し」
「待っていろ」
刹那が起き上がった。
眠いだろうに、目を擦りながら起き上がる。
そして、刹那はホットミルクをティエリアのために入れてくれた。甘党のティエリアのために、砂糖も入っている。
「飲め」
ずいっと、湯気のたつコップを渡されて、ティエリアはそれを受け取った。
「ありがとう」
「いつでもいい。俺に会いたくなったら、遠慮することなく会いにくればいい」
「でも、それでは刹那が」
ホットミルクを飲みながら、ティエリアが言葉を区切る。
「刹那の邪魔を、してしまう」
「ティエリア」
刹那もホットミルクを飲みながら、ため息をつく。
「何度いえば分かる。俺は、望んでティエリアの傍にいるんだ。ティエリアが他の人間を頼らず、俺を迷うことなく選んでくれることに感謝さえしている」
「刹那は、優しいな」
「そうでもない。ティエリア以外にはあまり優しくしない」
「僕は特別なのか?」
「ああ。特別だ。そして、誰よりも大切だ。俺の魂の双子」
二人でホットミルクを静かに飲む。
そして、ティエリアの動悸も気分も治まり、また眠気が襲ってきた。
「刹那、眠い」
「ベッドの中に入っていろ」
「分かった」
そのまま、刹那のベッドの中にはいる。
刹那も、ティエリアの隣に寝そべった。
「俺がついているから、安心して眠れ」
「ありがとう」

ティエリアは、目を瞑った。

心地よい眠りの波は、すぐに訪れた。
ティエリアが眠ったのを確認してから、刹那もまた眠りにつくのであった。