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「ほんとにこれで良かったのかマリナ」
「ええ、いいのよ刹那」
エリュシオンの歌声を宿らせたはずのマリナ。でも、歌声は結局宿らなかった。
宿ったのは一瞬。
そう、エリュシオンの歌声は歌声を持っている者を殺さない限り、宿らないのだ。
でも、その歌声はエリュシオンの歌声そのもの。違いなど、同じエリュシオンの歌声をもつリジェネ以外、判別がつかない。
「刹那は、私の側にいてね。お願い」
「いるとも。我が姫君」
マリナの前に跪いて、その手に恭しくキスをする聖騎士の刹那。
一人、リジェネがつまらなさそうにその光景を見ていた。
「エリュシオンにいけたのに・・・・天使にならないなんて信じられない。さすが、僕の半身か。ティエリア・アーデ・・・また、どこかで出会えたらいいね」
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「らららら〜〜〜エリュシオンへの扉は〜〜〜・・・あれ?」
ティエリアは、船の上で首を傾げた。
失ったはずの、エリュシオンの歌声が、戻ってきている。
あまりの美しい歌声に、船の乗客は拍手喝さいに涙まで流して、ティエリアに続きの歌を歌ってくれるようにせがむ。
遠いエリュシオンの地で、天使に囲まれながら女神アルテナは船の上にいるティエリアとロックオンを水鏡で見ていた。
「本当に・・・違う世界のネイとティエリアを見ているようだ」
それは、血と聖水の世界の夜の血族のネイことロックオンとその血族であるティエリアを見ているようなものに似ている。
「人は人であるから幸せ・・・か。天使になりたくない。神は、人に天使になれるチャンスを与える。誰もが天使を選ぶ・・・でも、二人は違った」
エリュシオンの扉は今でもイスマイール帝国の聖神殿の奥にある。
エリュシオンの歌声をもつ者だけが扉をあけるとされている。でも、扉は他にも存在する。
エリュシオンの歌声をもつ資格があるものが、愛しいものを生贄に捧げて扉を開き、天使となるためにエリュシオンを訪れる。
人は、愛する者を犠牲にしてまで神に近づこうとしする。
でも、この世界のティエリアとロックオンは違った。
風が緩やかに琴の音を運んでくる。
「歌えよ、続き」
「ロックオン!」
綺麗な琴の音に重ねるように、ティエリアは目を瞑って歌い出す。
そう、エリュシオンの歌声で。
でも、もうティエリアのエリュシオンの歌声は、エリュシオンの扉を開くことはない。
背中にあった白い翼は、消えてなくなってしまった。
エリュシオンの歌声はあれど、その資格がないのだ。
全て、ロックオンを蘇らせるために捨てたのだ。エリュシオンの歌声でさえ、一度は捨てた。
ロックオンの琴の調べと美しいティエリアの歌声の旋律。
それことが、本当のエリュシオンの世界、楽園なのかもしれない。
二人の愛の絆が、本当のエリュシオンへの扉なのかもしれない。
海鳥が二人の頭上を羽ばたいていく。
ふわふわと羽毛が二人を包み込む。
ティエリアは歌い続ける。綺麗な声で。
もう、ティエリアは籠の中のカナリアではない。自由をえた美しい声で歌う人間だ。
「ららら〜〜エリュシオンへの扉は開かれた、天使たちは集う、女神の涙を見るために〜。ららら〜エリュシオンの地は楽園、神の奇跡の大地〜。エリュシオンへの扉は今日も開く〜〜〜でもそこから恋人たちは逃げ出すの〜。手と手を握りあって〜〜〜♪♪」
逃げ出したロックオンとティエリアを映す水鏡を消して、女神アルテナは微笑んだ。
そう、人の愛とは無限なのだ。それが、やっと分かった気がした。
船の上を、何話もの海鳥が蒼い空を飛んで横切っていく。
ティエリアの歌声とロックオンの琴の音を聞いて、そして飛び立っていくのだ。
ふわふわふわ。
舞い降ちる羽毛は、消えたティエリアの翼に似ていた。
エリュシオンの歌声 TheEnd
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ファンタジーっぽいものを。テーマはエリュシオン。
もう物語全然きめてなくて、2週間のブランクもあって( ´Д`)と
すっごい悩みました。
ラストはすんなり打てました。
あんまりいいお話じゃないけど珍しい洋風ファンタジーパラレルってことで。
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