結局、皆に事情を話して偽のネイ退治を決定した。 「ムーンリル皇帝かぁ。両性具有好きですね、あなたも」 「い、いやそんなことないぜ!俺にはお前だけだティエリア」 「そういいながら、鼻の下伸ばしてませんでした?」 「そんなことないってば!」 ティエリアはツーンとツンデレになると、フェンリルを抱いて不安そうなムーンリル皇帝を励ます。 「こんなロックオンでも、一応はネイです。こんないい加減ですけど、頼りになるときは頼りになります。僕も微力にしかならないかもしれないですが、力をお貸ししますので」 「ありがとうございます。ティエリア殿」 ムーンリルは背中の翼をばさりと伸ばした。 天使のようだと、ティエリアは思った。 エルフも美しいが、セラフィスという種族は名前に天使の最上位階級を抱くほどに美しい。幻想的で、神秘的だ。 ムーンリルは皇帝に見えない。人を支配するといった、王者の貫禄はなく、威圧感もない。そこにあるのは、ただ儚く美しい天使のような両性具有の少年に位置づけられたもの。道理でとても美しいはずだ。両性具有は、どんな種族であってもより一層美しい者が生まれる。両性具有は普通、聖職者の神子として崇められる。どの種族に生まれてもそれは変わりない。だが、皇帝とは。 やがて、浮遊船がエアード大陸についた。 そのまま、一同は皇帝の帰りを待っていた騎士団に守られて、宮殿に入る。 「兄上様!」 ムーンリルと同じ顔をした幼い十代前半の少女が、皇帝にかけよって涙を流した。 「兄上様、いやです、ムーリンリラを一人にしないで!私、あんな悪魔と結婚したくありま・・・・きゃああああ!」 戻ってきた皇帝は、その悪魔を連れていた。 「いや、いやです、私は宰相殿下の妻になるのです!ダメなら兄上様の妻になるのです!ネイなんて嫌い!!」 ちなみに、宰相は同じ皇族で兄弟である。近親結婚が、皇族では当たり前のように昔からおこなわれてきた。濃い血はより美しい皇族を生み出し、決して近親婚による障害などは出ない。 「落ち着きなさい、ムーンリラ。この方は本当のネイ殿。お前を娶ろうとし、何人かの仲間を殺した悪魔はネイ殿ではありません。私は、200年ほど前に本物のネイ殿にお会いしたことがあるので分かったのです。そして、盟約通りお前をあの悪魔に渡すほど私は卑怯者ではありません。本当のネイ殿とその仲間の方たちに助力を請い、悪魔を退治してもらうことにしたのです」 「本当に?兄上様」 「ええ、本当です」 「あー。姫さん。本当なら俺が娶るとかほざいてたネイことロックオンだ。心配しろ、あんたを花嫁にする気なんてないから。俺にはもう正妃がいる。永遠の愛の血族だ」 「まぁ。後ろの方ですか?」 ちょうど後ろにいたのはリエットだった。 「もがぁ、死んでもこんな女とだけは結婚しない!!」 「なんだとぉ、てめぇ、鼻くそ食わすぞ」 「ぎゃああああ」 リエットに追い掛け回されるロックオンに、ティエリアはため息をついて、自分から自己紹介に出た。 「僕が、ロックオンことネイの永遠の愛の血族、正妃でもあるティエリア・アーデです」 「まぁ。お美しい方」 ムーンリラは頬を染めて、ティエリアを見てから、それからリエットを見て、ロックオンを見て、最後にフェンリルを見て、ウエマは無視して兄の後ろに隠れてしまった。 「失礼します。妹のムーンリラは内気で・・・」 「怖いことは何もありませんよ」 にこりとティエリアが微笑む。 結局鼻くそを無理やり食わされて、床にプシュルルルルと沈んだロックオン、帝国騎士のウエマにもついでとばかりに鼻くそを無理やり食わせて、ムーンリル皇帝の前に立つ。 「俺に任せろ!!ブラッド帝国の皇帝の姉、リエット・ルシエルドが、帝国の名を汚すエターナルをぐっちゃぐっちゃのめっちょめっちょにして金玉えぐりとってそいつに食わせてやるから」 その言葉に、ムーンリラ皇女は顔を真っ赤にした。 だが、次の言葉に一同耳を疑った。 「なんて・・・・頼もしい女性でしょう。私、一目惚れしそうです。とっても美人・・・ホワイティーネイという亜種の皇族の皇女ですか。ああ、もうだめ。好きです、リエット様!結婚してください」 WHAT? みんな、冗談だとムーンリラ皇女の言葉に、笑いを浮かべてみた。 「まぁまぁ。皇女殿下も冗談うまいですね」 「ほんとに。あんな、あんな女と結婚したい、好きだなんて」 「恐ろしいにゃ。大魔王が空から降ってくるにゃ!!」 「兄上様!お願い、この方と結婚させてください!!」 ロックオンはこけた。 この皇女、本気のようだ。 「ええと・・・?」 ティエリアは目を彷徨わせている。 「出た、リエットの女殺し」 ウエマが、また悪い癖が出たと顔を青ざめた。 「うっせ!ムーンリラ皇女殿下、結婚はまだはやい。もう少し付き合ってからにしよう」 「まぁ。交際してくれるのですか」 「俺でよければ」 リエット・ルシエルド。皇帝の姉姫でありながら、幾人もの貴族の姫たちを泣かせてきた女。無論交際も何度もしてきたが、心から愛するのはフレアただ一人。 「ゆ・・・百合だにゃーー!!」 その言葉に、ロックオンは鼻血を垂らして床に沈没した。ロックオン、女性の絡みの百合には免疫がなかった。 「百合・・・」 これが噂にきく百合か。 「では、誓いのキスをしてください」 「ああ、いいとも」 リエットは、みんなの前で堂々と、ムーンリラ皇女の唇にキスをした。舌だって入ってた。 リエット・ルシエルド。男性に生まれたかった女性。なぜか女性にやたらともてる。故国では、貴族の姫君は皆、他の皇族や王族、貴族の男よりもリエットの正妃になりたいと望む。 女と女、男と男の同性結婚も認められているブラッド帝国では、同性を好きになるのも自然のこと。 少なくとも、リエットが好きになったフレアも少女体だった。 リエットも、男よりは女の方が好きだ。交際してきて泣かせた女性の数は星の数。百合の獅子姫などと陰で言われているが、彼女は気にしない。いつでもフリーダムに生きる。やはり、彼女の中にはコスモがあるに違いない。 「ああん」 リエットのテクニックで、ムーンリラ皇女は腰砕けになって、リエットは彼女を軽々と抱き上げると寝室まで届けて、眠るまでいろんな豊富な知識を利用して、たくさんの話をするのであった。 少なくとも、今までの交際もそんなディープなものではない。彼女が愛するのは、あくまでフレアただ一人なのだから。 NEXT |