「ふぁぁぁぁ」 ティエリアは欠伸をして、一回大きく背伸びをするとベッドから起き上がった。 ロックオンも同じベッドで眠っていたのだが、ジャボテンダーを抱きしめて床に転がっていた。 ティエリアが蹴落としたのだ。 「寝相いつも悪いですね」 ロックオンが起きていたら、お前に蹴落とされたんだと絶対言うだろう。 「さて、朝食でも作りますか」 何気ない朝の一日が始まろうとしている。 キッチンにいくと、すでに料理はできあがっていた。 「あ、あれ?」 フェンリルを頭に乗せて降りてきたティエリアは、そうか、居候が増えたのだと思いついた。 「あー、おはよう。今日も元気やな」 ルシフェール・アスタルと名乗る、帝国出身のエゼキアルというエターナルよりもさらに上、ホワイティーネイの亜種を人工的に遺伝子を操作して作られた種。 もはや、彼らはヴァンパイアではない。 血を必要としないのだ。 「今日も早いですね」 「まぁ、世話になっとるから。働かんとな」 ロックオンはいつものらりくらりして、働いていないけど、とティエリアは思った。 コーンポタージュスープを、椅子に座って飲むと、体中に暖かさが染み渡る。 「アクラは?」 「寝とる。一度寝ると起きへんねん」 無の精霊であるアクラシエルは、一度眠ると2、3日起きてこないことがある。 精霊としての存在がまだうまく世界に馴染めていないらしい。 「おとついアクラとヴァンパイア退治にいったけど、無の力って凄いねんな。空間ごと捻じまげよった。んで、提出する灰は?って聞いたら、吐きよったわ。どないなってんねん、あの子。恋人やいうても、なんか友達みたいなかんじやし」 「はぁ。アクラはなんか不思議なところがあるから」 「胃から剣とりだしてん、戦いのとき。他にも聖水とかいろいろ。四次元ポケットの胃や本人言うてたけど」 「うん。四次元ポケットだよ」 アクラシエルの胃は、 亜空間に繋がっている。四次元ポケットのようにたくさんのものをしまうことができる。でも、出すとき吐かなければならない。「おええええ」とかいって、見ていて吃驚するし、実際に嘔吐するわけではないのだが、もっとなんとかならないのだろうかとティエリアも思った。せっかく美人なのに、まるで一人でギャグをしているように、なんでもかんでも吐いて、そして小さくして食べて胃に収納してしまう。 亜空間作用なら、大気の精霊を利用して鞄なんかでも同じことができるのに。 「ネイが、起きてきたら本題に入ろか。エゼキアルになり損ねたのが、帝国から這い出してる。エゼキアルは、普通のヴァンパイアよりも力が上。そういう風に作られとるねん・・・・言っとくけど、じいさんが失敗作作ったわけやないで。自分から勝手に遺伝子操作を自分で施して失敗した。ホワイティーネイの子孫じゃない奴がエゼキアルになるために遺伝子操作受けると、失敗してフォールダウンするねん。血と殺戮を求めるヴァンパイアになりおる」 「やっぱり、そんなとこだろうと思ってた」 いつの間にか、ロックオンが降りてきて隣の部屋にいたのだ。話を立ち聞きしていたらしい。 「ネイ。・・・・・・これ見れば、あんたも黙ってはおられへんやろ」 キュイイイン。 ルシフェールの背の黒い翼が甲高い音を立てる。 「ま、さか・・・・」 ロックオンは呆然となった。 「そのまさかや」 「エーテルイーター。神々にのみ与えられた力。もってるねん、エゼキアルは。不完全やけどな。魂に神格が宿るから。ホワイティーネイは、もともと神として生まれるはずだったヴァンパイアや。その子供たちは、神となるはずだった子供たち。神ではない、魂に神格をもつ、エゼキアル。不完全なエゼキアルもエーテルイーターを宿す」 「帝国から這い出したその出来損ないも、不完全だがエーテルイーターを所持しているわけか」 「そうや。せやから、あんたの力が必要やねん。本来なら自分ら種族で片付ける問題なんやけどな。いろいろあってなぁ。お、来たみたいや」 コンコンと、扉をノックする音に、ティエリアが対応して玄関を空けると、刹那とリジェネが入ってきた。 「ティエリア、久しぶりー!!」 リジェネは勢いよくティエリアに抱きついてくる。 刹那は、金色の鷹を肩に止まらせて、無言で玄関から部屋に入るとソファーに腰掛ける。 「話は、全てそいつから聞いた。俺とリジェネも同行してくれとのことだ」 「お前、なんで刹那とリジェネのこと知ってるんだ」 ロックオンが、ティエリアを背に庇って、ルシフェールを睨みつける。 「せやからぁ・・・・・言うたやんか。神になりそこねたヴァンパイアやて。神に近い者、それがエゼキアル。神の空間である神の庭にも行けるで。エゼキアルを作り出すことを進めたのは、創造神ルシエード」 「ルシ・・・エード・・・」 「そう。ネイを殺すために、作られた。それがエゼキアルの種のはじまり。でもみんな、ネイを殺すなんて大それたこと考えてへん。勝てるわけないやろ。血の神に。神の紛いもんが」 「お前は敵なのか、味方なのか?」 「エゼキアルは基本的に中立や。あんたに属さない。でも、俺は味方や。ルシエードが嫌いやねん。アクラ、あいつのせいでおかしくなったんやろ。いきなり現れて、ネイを殺す駒になれてな。何が駒や!生きてるもんなんと思うてる。何様や。って神様か・・・・エーテルイーターで攻撃したら、鼻で笑われたわ。力が違いすぎる・・・・ネイ、あんたならルシエード、殺せるやろ。今とは言わん。俺も知ってるから。その時がくるのを。その時、エゼキアルはルシエードの手駒やのうて、あんたの手駒になるべきや思うねん。俺は・・・・・ネイ」 「お前・・・・。いや・・・・そう、思い出したアスタルは、ウシャスの名の一部。ウシャスは子を一人産んでいる。それが、多分セエレ。神の子は神にしないとウシャスが決めた。そして、お前は」 「創造の母、ウシャスの血をひく、神になれなかった子はヴァアンパイアとして生まれた。それが祖父セエレ。そして俺はその血を引く者。ネイよ。俺は敵対するつもりはない。ウシャスの意思だ。エーテルイーターも、お前と同等のものは持っていない。持っていれば、お前は警戒し威嚇する。ウシャスの意思、それはヴァンパイアの中にネイのような神をつくること。そしてきたるべき日にルシエードを抹殺する」 「創造の神々は、仲が悪いな」 「そうやねん。ま、俺はただのエゼキアルや。ウシャスの血を引いているいうても、従うふりしてるだけやし。アホらしいやん。どいつもこいつもエゼキアルを、手駒にしようとする。でもネイ、あんたならそんなことしないやろ。だから、俺はネイにつく。俺がネイにつけば、他のエゼキアルもネイにつく。まぁ、今回は本当にエゼキアルの紛い物退治やねんけどな。あんたと敵対することだけはないわ。それは約束する」 「神々のことは、よく分からんな」 ティエリアが入れた紅茶を飲んで、刹那は新聞を広げてまるで自分のホームのように寛いでいる。 リジェネは変わらずティエリアに抱きついたままだ。 「で、どうすんの。エゼキアルの出来損ない退治、一緒に引き受けてくれるん?」 「引き受ける、しかないだろ。どのみち、そんなやつを野放しにはできない」 「そうですね。協会から指名がかかる前に、殺しましょう。人を一人でも救いたい」 ティエリアの言葉に、皆頷く。 「ありがとさん。ウシャスのことは気にせんといてな。強情なおばはんやから」 「ウシャスまで・・・動き出した、か」 ロックオンは、冷めたコーンポタージュスープを飲みながら、思案する。 神々の争いなど、どうでもいい。この世界が平穏であれば。 それを邪魔するようであればたとえ創造の神々であっても排除するのみ。 ルシフェールは、空の色の瞳で窓の外を見る。 スカイブルーの髪と瞳。 (ウシャス・・・・) 窓の外には、ルシフェールと同じ水色の髪と瞳の少女が立ってじっとルシフェールを見つめていた。 (ウシャス。これでええねんろ。ウシャスが動いているように見せかけること。なぁ、ウシャス。どうして自害してもうたん?愛してたのに) 窓の外の、ウシャスの思念体は、哀しそうに微笑んで神の庭に帰っていった。 ウシャスの死。 それはアルテナもルシエードも気づいていない。 ウシャスは思念体を残し、死んでもそこにいるかのようなのだ。力も残っている。 ウシャスは、自害した。子孫であるルシフェールだけが知っている。恋人であった彼だけが。 水色の髪と瞳の、同じエゼキアルとして転生したウシャスは自害した。 神々の争いを止めるのはウシャスの役割だった。でも、彼女はもういない。 ゆっくりと、確実に時は流れていく。滅びの未来へと向かって。 NEXT |