ティエリアを呼びにきたロックオンは、彼の了承を得て部屋の中に入った。 「いつみても、殺風景だよな」 部屋の中には、必要なものがあるだけで、趣味というものが伺えない。あるとすれば、読むのも難しいだろう、専門分野の分厚い本が、本棚に並んでいるだけだった。 「あなたには、関係のないことだ」 「まぁそうだけどな。もちょっと、部屋に彩りってもんを加えようとおもわねぇのか?」 ロックオンの問いに、煩わしいとばかりにティエリアは自分の部屋を見回した。 確かに殺風景であるかもしれないが、本棚もブックカバーも白を基調としており、それはベッドシーツや枕とあわせたものだった。 ティエリアだって、彼なりに自分の部屋をアレンジしている。それが分かりにくいだけだ。 「それよりも、用はなんですか。用がないのなら、さっさと出て行ってください」 冷たいティエリアの態度に、ロックオンは怒ることもせずに、ティエリアと会話を続ける。 「ピンクなんて服着るのはプトレマイオスでもティエリアだけだよな」 「それがなにか」 「いいや。髪と同じ色の服も似合うんじゃないだろうかとおもってな」 髪の色と同じ、濃紺の服をきた姿を想像する。 色素の薄い白い肌がいっそうに映えて、悪くないかもしれない。 「あなたという人は!勝手に妄想しないでください!!」」 心なしか、ほんのりとティエリアの頬が染まる。 ほんと、変わったよなぁ。 ティエリアのかわいい反応を楽しみながらも、肝心のことを告げ忘れている。 「ミス・スメラギが後でミィーティングルームにくるようにと、言っていた。それを伝えにきただけだ」 本当は、顔を見にきたのもあるけれど。会話をしにきたのでもあるけれど。 「そんな重要なことは、最初に言って下さい!」 服装に乱れがないかをチェックして、彼は早々に部屋を後にした。 一人残されたロックオンは、ティエリアのベッドに腰掛けた。 そして、不眠症に陥っていた時に送った絵本や小説が、専門書が大半を占めた本棚の一番上に、大切にしまってあるのにきづく。 わりとたくさんの本を送ったのに、どれ一つ捨てることはせずに、本棚に大切にしまわれていることに、ロックオンは今すぐティエリアを 追いかけて抱きしめたい衝動に駆られた。 「そういえば、この前あげた熊さん見当たらないな」 この間、ティエリアに手の平サイズの熊の人形をプレゼントした。ロックオンとお揃いだったが、ティエリアは あまり喜んでくれなかった。 「やっぱ、流石に人形なんて捨てちまうかな」 勝手に、ティエリアのベッドに横になる。 すると、枕元でチリリと小さな鈴の音が鳴った。 それは、枕の横に大切そうに置かれた小さな熊の人形が出した音だった。 「あー、やべ。まじで嬉しい」 可愛い熊の縫いぐるみと一緒に、毎夜ティエリアは眠りに落ちるのだろう。 ロックオンは、ティエリアのベッドに横になった。ティエリアの匂いがする。 不思議ではあるが、それは甘い花の香りだ。 ベッドに仰向けになりながら、ロックオンはティエリアが帰ってくるのを待った。 そして、知らない間に眠りについてしまう。 ミス・スメラギとの会話を終えたティエリアは、すぐに自室に戻った。そこで、自分のベッドで安らかな寝息を立てているロックオン を目にする。 昔なら、怒鳴り散らしていただろう。 「本当に、あなたはしょうがない人だ」 そういって、そっと毛布をかけてやる。 ロックオンの寝顔は穏やかだ。 こんな時間がもっと続けばと、ティエリアは心の中で呟いた。 |