残酷なマリア「僕は、逃げていたんだ」







「どうして・・・・再生、させない!使徒は、傷を高速再生できるだろう!」
高層ビルの壁に光の槍で縫いとめられたリジェネは、微かに微笑した。

「僕が・・・・好きで、使徒をやっている、とでも?」
「そうじゃなきゃ、なんなんだ!!」
「だって・・・・使徒として生まれたからには・・・マリアナンバーズを狩らなきゃ・・・・僕は、普通の黒天使でも白天使でもいい・・・・ああ、でもそうだなぁ。この世界の人間の命は儚いけれど・・・・人間に、生まれてみたかったかも、しれない」

ティエリアは、光の槍をリジェネの体から抜き取った。
それでも、彼の命でもある血は止まらない。
コアを傷つけた。
多分、助からない。

彼は使徒だ。
マリアナンバーズの最大の敵だ。
でも、でも・・・・。

でも、彼は。
そう、彼は半身。
僕の、半身。
兄弟。
17年間、一緒に双子として暮らしてきた記憶がティエリアを揺るがす。
大切な、兄弟。

「エーテル最大解放、マリアよ目覚めよ・・・・」
「?・・・・何してるのさ、お前・・・・」
エメラルドの光の渦となって、ティエリアの体内からエナジーがリジェネに注がれた。
「ばっかじゃないのか・・・・自分、何してるののか分かってる?僕は使徒なんだぞ?お前を殺すための」
「でも、僕たちは兄弟だ!」
強い声だった。
「兄弟・・・・・」

一緒に生まれ、そして育ってきた。
年月にすれば僅かな時間であるけれど。

そう、彼らの寿命からすれば、ほんの数分のような時間だ。17年なんて。

それでも。
それでも、兄弟だから。

「どうせなら、核、アダムとイヴの種1つよこせよ。それ、確実にお前の命縮めてるぞ・・・・」
「だめだ。これはオリジナルマリアの形見。僕が僕である、最大の理由。僕の存在意義。ロックオンと過ごした時間も僕の存在意義ではあるけれど・・・・しょせん、僕はマリアナンバーズ。宿命から逃れることはできないんだって、分かってた。逃げてたんだ、僕は。ロックオンに愛され、愛することで自分の宿命から、運命から逃げてた」
「意味わからない・・・」
「僕だって・・・・なんで、こんなことしてるのか、分からない・・・・」
二人は、一時唇を重ねる。
「おっかっしいだろ、これ。敵同士、しかも兄弟で」
「おかしい。でも、君とは・・・・争いたくない。僕の、大切な、弟・・・・だから。お願い。ロックオンは傷つけないで。僕をいくら傷つけてもいいから。ロックオンだけは・・・・」
「僕が、マリアナンバーズのいうことなんて聞くと思う?」
「分からない。でも、君なら僕の気持ちを理解してくれる気がする。同じ、孤独を抱えそれに恐怖する僕ら。使徒もマリアナンバーズも、相反する存在でありながら、その存在位置はどこか似てるんだよ。孤独が怖いんだ」
「は、言うね・・・・・もういいよ。顔見るのも嫌になってきた。僕の気がかわらないうちに、消えてよ」
「ありがとう・・・・」
ティエリアは、リジェネの額にキスをすると、そのまま、高層ビルの屋上に結界を張って、眠りについたリジェネを見届けてから、ティエリアは翼をしまいこんで、地上に降り立った。

「・・・・え、天使!?」
その姿をみて驚愕した人は、けれどすぐにそのことを記憶から忘れて普通に歩きだす。
ティエリアは、ただずっと歩き続けた。
ボロボロになった衣服は、エーテルで修復した。
そして、気づけばロックオンがいるホテルを見上げる。
「どうして、今更・・・・彼に、どんな顔で会えと。彼はもう、僕のことなど忘れてしまっているのに・・・」

愛してるよ。
よく、彼は優しくそう微笑んでくれた。
懐かしい思い出。
心から、いっぱいあふれ出しそうな。

ティエリアは踵を返して、自分の家に戻った。ここも早々に引き払わなければ。
そのまま、一夜が過ぎる。
そして、ロックオンの夢を見た。
いつものように、無邪気にデートする夢を。

朝食をとり、足りないエーテルを補うために、自然のエーテルを取り入れて、朝の散歩をする。
公園を過ぎて、そのまま住宅街を通りすぎて。
気づけば、ロックオンが住むマンションの前に来ていた。
もう、ロックオンは自宅に帰っているだろう。
「バカだな、僕は・・・彼は、もう僕のことなんて覚えていないのに・・・・でも、会いたい・・・・」
涙が、頬を伝った。

その時だった。
ポンと、軽く肩を叩かれる。
「え?」
振り向くと、ロックオンが立っていた。
「よ。昨日はなんかごめんな。気づくとベッドでぐーすか眠って、ティエリア先に帰らせちまって」
「なんで、僕のことを覚えて!」
確かに、彼にはティエリア・アーデに関する記憶抹消の操作をした。それなのに、何故。

「俺は誓った。お前と生きるって。記憶を奪う?本気で、お前が俺にそんなことできるわけ、ないだろ?俺を忘れることなんて、お前にできるわけないだろ?」
「僕は・・・・失敗して・・・・」
ぶわっと、涙が溢れて頬を伝う。
そう、ロックオンの記憶から自分のことを消そうとエーテルを実行した。
でも、それはティエリアの中にある、彼を愛するきもちのせいで失敗したのだ。

「失敗なんて・・・・許され、ないのに」
「だから、言っただろ。お前が一度死んだ時に・・・お前が生きてるなら、死神でもいいって」
「僕は、あなたを愛してもいいのですか?」
「当たり前だろう?」
いつものヒニルな笑みが返ってきた。
「現実から逃げてもいいんですか?」
「逃げちまえ。人間として生きろよ」
もう、何もかも忘れてしまおうか。全てを放棄して、人間として生きてみようか。

「ロックオン、愛してています!大好きです!!」
ティエリアは、ロックオンに抱きついていた。
ティエリアを抱き返しながら、ロックオンは空を見上げて、胸中で呟いた。
(ごめんな、ティエリア・・・・この愛は、最初から偽りなんだ。そう、偽物の愛)
ティエリアには思いも知らない事実が、二人の真実の愛と思うその愛にはあった。
そう、全てはロックオンによって仕組まれたこと。
その事実を知るのは、少し後のことになる。

 

 




NEXT