残酷なマリア「エーテルになっても」







「さて、では仕上げといくかい。君も、一緒に殺してあげよう」
リボンズはくつくつと笑って、言葉を紡ぐ。
「魔女の断罪!(リリスオブギロティヌス!)」
巨大な真紅の斧。首を刎ねるための、中世に死刑執行に用いられたものだ。
それを、まずは動けないでいるロックオンに向ける。
「逃げろ、ティエリア!」
「嫌です、あなたをおいてなんていけない!」
「分かっただろ?こいつの言葉で・・・・俺は、お前を利用してただけなんだ。愛してたなんて嘘だよ」
「そんなはずはない!!」
ティエリアは泣き叫んだ。

「エーテル最終解放、目覚めよ我の中の真なるマリア!!荒れ狂えええええ!!」
「バカじゃないの。体が、消し飛ぶよ?エーテルを制御できずに」
「構うもんか!たとえ、偽りだっていい!僕は、ロックオンに愛されたい。そして、これからも愛したい!」
「バカ、ティエリア、まじでやめろ!!」
ロックオンが、なんとか体を自己再生させながら立ち上がる。
そのまま、ティエリアを後ろから抱き締める。

「いいから・・・・俺のことはいいから・・・・そうだ、俺を使え。俺をエーテルとして・・・・」
すでに真なるマリアに意識を支配されているティエリアには、ロックオンが何を言っているかなど理解できていなかった。
「おおおおお・・・・」
ティエリアは唸り、自分の中のもう一つの核、オリジナルマリアの核をエーテルとして起動させる。
「ぐ・・・う・・・・」
体が、その負荷に耐え切れない。踏みとどまろうとするが、オリジナルマリアの体をもってしても、核を取り込むだけで二つも起動するなんて、無茶がありすぎた。ティエリアの体は普通のマリアナンバーより核を多く所有できるだけで、制御しきれるわけではない。
ティエリアの体が、エーテルの構成力に耐え切れず、崩れようとしていた。
ロックオンは、自らエーテルとなって、崩れていくティエリアを支える。
エメラルドの光となって、ポッポッポッと光を灯しながらロックオンの体が消えて、ティエリアに吸い込まれていく。

「聖女の・・・・・・永遠の言霊!(マリアオブエターナルフレア)」
世界が軋む。

空間が歪む。
歪曲するその事象変異に、リボンズは飲まれていく。
自分を構築するエーテルと魔力が崩れていくのを、リボンズは人事のように見ていた。
「へぇ・・・・面白いね。でも、ね共倒れ。残念だね」
さして残念そうな言葉も悔しそうな言葉も残さず、リボンズは歪曲した空間に飲み込まれ、サラサラと灰になって崩れていった。

***************

「・・・・・・・・ロックオン?どこ?」
涙を流しながら、捻じ曲がった空間にリボンズが消えたのを確認して、何もなかったようにおさまった世界でティエリアは佇む。
すると、背後からティエリアを包み込む暖かな光があった。
エメラルド色のそれは、エーテルに近い。
「ロックオン!?」
「俺・・・崩れちまった。お前の体を保たせるためにエーテルになったんだ。ずっと、一緒にいるから、さ」
「いやです!!そんなのいやです!!」
ティエリアは、自分がしてしまった過ちに今更ながらに気づく。

二つの核を同時にエーテルとして使うなど、自殺行為だ。
自滅するならいいけれど、ロックオンを巻き込んでしまったなんて。

いやだ、いやだ、いやだ。

「目覚めよ、我の中のマリア!再生の光を!!」
エーテルをいくらロックオンの透けた体に注ぎ込んでも、無理だった。
彼は、再生しない。
「いやだ!あなたがいなくなるのなら、僕もいなくなる!」
「何いってるんだ、ばかだな。せっかく俺が命かけて守ったのに。なぁ、このままでも大丈夫。お前には、たくさんの未来が・・・・」

「いやだ!!!」
ティエリアは首を振って、空を見上げ、薄れていくロックオンの体を抱き返した。
「消えないで、ロックオン!使徒でもなんでもいいから!この愛が嘘でもなんでもいいから!お願いだから!」
「嘘じゃないよ。最初はでも偽りだった。でも、今はお前への愛は、嘘じゃない。真実の愛だ。昔、いつか、使徒としてお前から核を取り出して殺そうと思ってた。でもできなかった。お前に、本気でほれちまったんだよ。使徒の俺が、マリアナンバーズにだぜ?ははは・・・」

「ロックオン、なんで僕なんか守ったの!」
「そりゃ愛してるからに決まってるだろ。ああ・・・・お前の体温、あったかいな」
透けたロックオンが、流れ落ちるティエリアの涙を舐めとる。
「俺は、いつでもお前の中にいる。ずっと、ずっと」

「いやだ、消えないでーーー!!」
薄くなっていくエメラルドの光。

ロックオンは、蛍のようにエメラルド色の光を点滅させて、ティエリアの中に吸い込まれていく。
「ロックオーーン!!」

「いつでも・・・・どこでも、お前を見てる。愛してる。今度あうときは・・・・きっとどこかで。また、あおう。そして、今度こそほんとの恋人同士になろうぜ・・・・な、ティエリア」
「いやだ、いやだああああ」
泣き叫ぶティエリアを残して。

ロックオンは、世界から完全に消えてしまった。

「あああ・・・・・」
自分の体を抱き締めて、ティエリアは嗚咽を零し、地面にしゃがみこむ。
「こんなの、いやだああああああ」
大きな絶叫する声が、ティエリアだけを残していった。
命をかけても守りたかった存在が、消えてしまった。誰でもない、僕のせいで。
数ヶ月の間、ティエリアは立ち直れなかった。ロックオンのあとを追おうとしたこともあった。
でも、自分の胸の中に、核の中に一緒にあるロックオンの眠る意識を確認しては、思いとどまる。

僕は、一人なんかじゃない。孤独じゃない。
いつでも、ロックオンと一緒なのだから。

だから、彼と交わした約束を果たすために、出発しよう。僕とロックオンが再び出会うための、未来へと。
一歩一歩、進んでいこう。
 


 




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