「んあ?」 彼、ロックオンが目覚めるとそこは見たこともない部屋だった。 ノーマルスーツは脱がされ、傷口は見当たらなかった。 サイズのあわないパジャマを着ていた。 「どこだ、ここ。天国?」 そう、俺は宇宙でアリーに向けて銃を放って、そのまま死んだはず。 自分は死んでいくのだなと、遠くなっていく意識の縁でそう思ったことを覚えている。あの重症で助かるはずがない。 「天国にしてはしけてるなぁ」 モノクロの天井を見上げて、ロックオンは起き上がった。 目の眼帯に手をやる。視界は片目分しかない。右目の視力は失われたままだ。 そのまま起き上がると、ちょうどカチャリと扉が開いて誰かが入ってきた。 そちらの方を向く。 「刹那?」 入ってきた人物は、刹那だった。 「なんだこれ。夢?随分と背が伸びたなぁ。あ、でもまだ俺のほうが高い」 ロックオンは笑って、ベッドの上に正座する。 刹那はロックオンに水の入ったペットボトルを渡した。喉が渇いていたので、ロックオンはそれを全て飲み干してしまった。 「あんた、変わってないな」 「そういうお前は変わったな」 「どうして、ここにいる?」 「さぁ。俺にも、分からない」 確か、宇宙で眠りについたはずだった。 それは、人間でいう死の世界。 そこからいきなり引きずり出されて、ロックオンは地球の、それもティエリアが墓参りしている上に落っこちてきたのだ。 まさに、落下。 「んー。なんで俺、いるんだろう?死んだ。確かに、俺は」 断言できた。 実は助かってました〜とか、そんなオチはない。 「そうだ。あんたは、死んだ。10年前に」 「ちょ。も、もっかいいってくれない?」 「10年前に。ライルがガンダムマイスターとしてロックオンの名を継いだ。でも、俺の中で「ロックオン」は、やっぱりあんただけだ」 真紅の瞳が、ロックオンを見下ろす。 「ライルが・・・・いや、それより10年って」 「言っての通りだ。俺は、あんたの意思を継いで変わった。そう、あんたが望んだ戦争のない世界に、この世界はなっている。少なくとも今は、戦争はおきていない」 「そっか」 まだ頭はこんがらがっていたけれど、刹那の前に現れて、「俺の意思を継いで世界を変えろ」といった記憶があった、ロックオンには。 「あんなガキンチョだったお前がなぁ。いやぁ、兄さんびっくり」 「びっくりなのはこっちのほうだ。墓参りにいったティエリアが、猫か犬みたいに、あんたを拾ってきたんだから」 目の前の刹那は、まだどこか幼さを残した二十歳前後の年齢に見えた。身長は175センチ前後。 昔記憶していた、16歳の頃の刹那が成人すれば、きっとこんな姿になるだろうという予想の姿そのままの形。 「俺は」 刹那は、ロックオンの手からからっぽになったペットボトルを受け取って、そのままややきつい眼差しでロックオンを射抜く。 「今更だ。こんなの、今更だ。俺はあんたに、渡さない」 何を? そう問おうとして、ロックオンはその答えにすぐにぶちあたって、黙り込んだ。 「あんたに、連れていかせない。あんたはもう・・・・この世界では、死んだ、人間なんだから」 ゆっくりと告げる刹那。 懐かしみのこもった視線の中に、でも明らかな拒絶が含まれていた。 刹那は、イノベイターとして目覚めたのだという。そのでせいで不老不死、外見が変わらないのだそうだ。 同じように、一度は死にそして肉体を得てまた目覚めたティエリアも、不老不死。 そこに、突然、ロックオンの墓参りをしているティエリアの上から降ってきたロックオン。 昔の刹那なら、腕を広げて抱きついただろう。そう、戦争が終わった直後あたりまでなら、ロックオンがどんな形であれ、どんな理由があれ、世界にもう一度現れてくれたことに天に感謝さえしただろう。 でも、今はできない理由がある。 だって、ロックオンは。 「あんたは、連れ戻しにきたんだろう?自分が愛した人を」 刹那は、目を閉じるロックオンに続ける。 「・・・・・」 ロックオンは無言だった。 「あれから、もう10年だ、ロックオン。人間関係だって変わる。俺は、あんたが死んでそれからずっとティエリアを支え続けた。ティエリアと籍も入れた。子供だっている」 ロックオンはゆっくりと瞳を開いた。 「結婚、したのか」 「ああ」 刹那はどこまでも静かだった。 「ティエリアは中性だったんじゃないのか?子供って」 「性別が固定されたんだ。女性に。俺は、ティエリアを守る義務がある。たとえ・・・大好きな、あんたであっても」 蘇ったよ、やったハッピーエンド。 そんな風にはなりそうにもない重い雰囲気。 そう、何故ならロックオンは、ここに存在してはいけない存在だったのだから。 NEXT |