リップクリーム








「刹那」
「どうした?」
「んー」
フェルトは指を一本突き出すと、それで刹那の唇に触れた。
「?」

「荒れてないね。唇」
「そうか?まぁ別に気をつけてるわけじゃないが」
「なんのリップクリーム使ってるの?」
「いや別に」

フェルトは自分のかさかさに荒れてしまった唇に指で触れてから、羨ましそうに刹那を見た。

「わたし、この時期になると荒れるのよね。羨ましい」
「別に、羨ましがられるほどのものじゃないと思うが」

「ううん、羨ましい。これあげる」

「え?」

フェルトは制服のポケットから、かわいらしいデザインのリップクリームをとりだすと、それを刹那の手に握らせた。

「ありがとう」

微笑んではみたものの、どうみても女性向け。おまけに薄紅色と、色までついている。
これって。
これで、どうしろというのだ、フェルト。
刹那はリップクリームに目を落とす。

「お揃いだから!なくさないでね!」

ちゅっと、音をたててフェルトの唇が刹那の褐色の頬に押し当てられ、すぐにその体温は去っていった。

「うっは、はずかし・・・・じゃあね!」

ぶんぶんと手をふって、フェルトは宙を蹴る。

小さくなっていく彼女の後姿を見つめる刹那は。

とりあえず。

なんとなく、リップクリームを塗って・・・そして、すぐに手の甲でふいた。

「お揃いか・・・・・しかし、色つきなのがどうも・・・・」

お揃いなのはいいけど。
使えないのがどうにも。

刹那は、フェルトからもらったリップクリームを、でも大切そうに制服のポケットに入れて、ブリーフィングルームに向かって歩き出した。