ロストエデン「ロストエデン」







ティエリアの部屋で、刹那はティエリアと過ごしていた。
ライルにいった言葉は本気だった。
一度は、ライルにティエリアを委ねようとしたが、もう刹那も迷わなかった。

愛されなくてもいい。愛の形じゃなくていい。
傍にいれるなら、それでいい。
誰にも、邪魔はさせない。

刹那は、ティエリアからティエリアの人格が消えたことで、どれほど自分がティエリアに依存し、その存在を大切にしているかを再認識させられた。

「好きだ、ティエリア」
念のために、精神分析を行われたが、順調に回復していると医師は診断した、
だが、念のためにまだ外出は控えるように言われている。なので、ティエリアはじっと大人しく部屋の中にいた。そのまま、ライルと刹那が度々部屋に訪れ、一緒に眠った。
アレルヤも心配して顔を出してくれた。
「僕も好きだ、刹那」
ティエリアは、刹那の黒髪を撫でながら、歌う。

天は人に試練を与えた 神は人に試練を与えた
生きることへの試練を 人は生きながら噛み締める
天は人に愛を与えた 神は人に愛を与えた
人は生きながら愛し合う 愛の素晴らしさは無限だ
エデンへの扉は締め切られたままだった
けれど人は鍵を手に入れた 人は罪深い
エデンに入る資格などないのに 人は鍵で扉を開けた
アダムとイヴが食べたという木の実を
人は口にする そしてまた罪に身を染める
天は人に試練を与えた 神は人に試練を与えた
生きることへの試練を 人は生きながら噛み締める
人は無限の可能性を秘めたまま生きる
愛の軌跡を 何度も何度も繰り返しながら
天は人に愛を与えた 神は人に愛を与えた
人は生きながら愛し合う 愛の素晴らしさは無限だ
愛の軌跡を 何度も何度も繰り返しながら

「愛の唄か」
「嫌いか?」
「いいや。ティエリアの歌う唄は何でも好きだ。綺麗な声をしている」
「ありがとう、刹那」
刹那の唇が、ティエリアの唇にふれた。
ふれるだけのキス。
ティエリアは、手を伸ばして刹那の輪郭を確かめる。
「私はもう一度歩きだす。あなたと一緒に新しい世界を」
刹那に抱きしめられながら、ティエリアは涙を零した。
ティエリアが口にした言葉は、「ロストエデン」の歌詞の一部だった。
「俺も歩む。ティエリアと一緒に、未来を」
じっとむけられるピジョン・ブラッドのルビーの瞳は、迷いがなかった。
「刹那」
「大好きだ、ティエリア。傍にいる。ずっと、いつまでも。一人にはしない」
ぎゅっと抱きしめられる。
その体温は、ロックオンに似ていた。
「刹那。僕も好きだよ」
ライルには、好きだという言葉をいえないのに、何故だろうか。
刹那には、自然と好きと口にできる。
そこに、愛をもちこなないことが二人のルールであるせいだろうか。
時折、二人はそのルールを破って愛を口にするけれど、あくまで二人は大切な友人同士であり、恋人ではない。これからも、恋人同士になることはないと断言はできないけれど。
未来は予測不可能だ。
刹那にも、ティエリアにも、ライルにも。

ライルは、自分の部屋で自嘲気味にティエリアの唄を思い出していた。
「ロストエデン」の歌詞を。
「世界は一度終わったのに、私はあなたと出合った。世界は一度終わったのに、私はあなたと出会ってしまった。世界の終焉から、あなたは私を連れ出す・・・・・」
ライルは、結局ニールによって終わってしまったティエリアの世界から、ティエリアを連れ出すことに失敗してしまった。
無理に連れ出そうとして、ティエリアは、ティエリアという自我を消してしまった。
ティエリアが記憶喪失になってしまったのは、多分自分が原因だろう。
愛しているのに。
こんなにも愛しているのに。
ティエリアには、届かない。ティエリアはニールをひたむきなまでに愛し続けている。
兄のニールからティエリアを奪い返せたのと思ったのに、結局は奪い返せなかった。
自分では、きっとダメなのだろう。
愛されなくてもいいと言いながら、そこに確かに愛を求めているから。
ライルは、枕を抱きしめる。
「ティエリア、愛している」
ティエリアが、自分を愛していると言ってくれる日はずっとこないかもしれない。
それでも、いいんだ。
刹那とティエリアの間に踏み込む形となったライルであったが、刹那からティエリアを奪うには、ニールからティエリアを奪うほどに難しいだろう。
あの二人は、まるで魂の双子だ。
比翼の鳥。
互いの存在なしでは、生きていられない。
ある意味、愛で繋がっている恋人同士よりも深い関係だ。
ティエリアは刹那を求め、刹那もティエリアを求める。

切ない。
不幸な結果しか生み出さないかもしれないと分かっていたが、ライルも止まらない。
ティエリアをいつかニールから奪い返し、刹那も納得する形で恋人同士になりたい。
愛されなくてもいい。愛したい。ただ、純粋に愛したい。
ティエリアを愛したい。

「あー暗っ!ティエリアんとこいこ」
ライルは、抱きしめていた枕を放り出すと、ティエリアの部屋の前までくると、教えられたパスワードを入力し、扉を開ける。
中では、刹那とティエリアがベッドで二人で横になっていた。
「あ、ライル」
ティエリアがライルに気づいて、手をふる。
「刹那、もっと奥にいけ」
「どうするつもりだ」
「俺も一緒に寝る!」
「いくらなんでも、三人はきつすぎだろう」
「構うもんか」
「ライル、重い」
「んー、ティエリア、今日もかわいい」
無理やりベッドの中に入ってきたライルに、ティエリアは抱きしめられた。
「ティエリアはやらないぞ」
「望むところだ!」
そんな刹那とライルのやり取りに、ティエリアが笑い声をあげる。
「僕はものじゃないよ」
「好きだ、ティエリア」
「なんの、愛してるぜ、ティエリア」

愛してしまった人は失ってしまったけれど。
自分は、なんて幸福なのだろうか。
二人の愛に包まれている。

「唄を歌おうか。なんの曲がいい?」
「ロストエデン!」
「同じく、ロストエデン!あの歌詞がじーんとくるんだよな」
「ロストエデンを歌います」
ぎゅうぎゅうになったベッドの上で、ティエリアは歌いだす。


世界は一度終わったのに 私はあなたと出合った
世界は一度終わったのに 私はあなたと出会ってしまった
世界の終焉から あなたは私を連れ出す
ロストエデン ロストエデン ロストエデン
失われた楽園に あなたは私を連れて行く
ロストチャイルド ロストチャイルド ロストチャイルド
終わりからの始まり あなたと私は歩きだしていく
私の世界は終わったのに あなたはそこから私を連れ去る
ロストエデン ロストエデン ロストエデン
失われた楽園に あなたは私を連れて行く
あなたの愛がそこにある わたしのためだけの愛がある
世界は一度終わったのに 私はあなたと出合った
世界は一度終わったのに 私はあなたと出会ってしまった
私はもう一度歩きだす あなたと一緒に新しい世界を
あなたに愛されながら 私もあなたを愛する
あなたの愛に包まれながら 私は生きる 歩みだす
ロストエデン ロストエデン ロストエデン
あなたの愛が 私の楽園 あなたの愛が 私の世界

歌い終わったティエリアを、ライルと刹那が奪い合いをはじめる。
それにティエリアが笑う。

もう一度、僕は歩き出す。
愛してしまった人は失ってしまったけれど。
あなたの愛が、僕の止まってしまった時間を刻ませる。
あなたの愛が、僕の血を流し続ける傷口を癒してくれる。
ロストエデンのように。
それは失われてしまった楽園のように。
氷解していく、ティエリアの心。
愛した人を失っても、人間性を失わないティエリア。
ロストエデンのように。
消えた楽園をさがすように、あてはないけれど。
明日を求めてしっかりと歩きだす。
誰でもない、あなたたちと。

           
          ロストエデン The End 
                          Thank you for you
                          Presented by Masaya Touha

                     ロストエデン ロストエデン ロストエデン
        もう一度歩き出す 私は もう一度歩きだす
        まるで 失ってしまった楽園を探すように

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冬葉マサヤプレゼンツ、ストーリーの大枠も決めないで自動タイピング機能を使って長編を書こうその6作品目。パラレルに走ることなく、2期での愛の形を探して。
作中にでてくる唄は全て冬葉が書いたものであり、実際には存在しないのであしからず。
ライルと体の関係を持ってしまったのですが、まぁなんというのかそういうのもありかなとか思ってみたり。
一部の作品では、ティエリアとニールは体の関係はなかったと書いていますが、実際はあった方向で。
矛盾してますけど、書き直すのがごっついめんどくさいので。どの作品でそんなこと言ってるのかもよく分からない。ちょっと小説打つ速度が早すぎて、自分でも把握できないや。
今回は、打ち終わってわりといいかんじに仕上がったかなぁと思いました。
涙を流すようなシーンはないですけど。
うちの家の、刹那とティエリアは、比翼の鳥で魂の双子、恋人同士ではないけれど互いを必要とするかけがえのない存在という設定で打つ小説を気に入ってくださるかたが、びっくりするくらいに以外と多くて。
刹ティエなんて外道だろうとか思ってたけど、気に入ってます。
他のサイトさまでは、ライティエはただ体を重ねる存在というのが多いですね。うちのサイトのライルは純粋にティエリアを愛しています。多分、ライルと刹那、どっちをとる?という結果的な問題になると、ティエリアは刹那をとるかもしれません。まぁ、三角関係でわいわいしといてくださいというかんじで。

このお話は、2009.1.12.20:36のWEB拍手で、2期の刹ティエ小説がすごくツボだというメッセージをくれた方に捧げます。完全な刹ティエじゃなくってごめんなさい。