惹かれてゆく「風に揺れるアイリス」







やがて、アイリスはニールと挙式をあげ、シュヘンベルグの館の隣に小さな一戸建ての家を作った。
いつもそこに、ティエリアとリジェネ、刹那が遊びにくる。
月に一度の定期的なメンテナンスを念のために受けながら、アイリスは幸せにニールと暮らしている。

一人の人形が、人間になりたいと願いました。
でも、人形は人間に愛されても人形のままでした。
人形は泣きました。
でも、人間は、人形のままで構わないと言いました。
人形ははじめて、笑いました。

アイリスは、ニールの手をとって、シュヘンベルグ家を訪れる。
「リジェネ、ティエリア、刹那、遊びにきたよ」
ちなみに、ニールは庭師を止めてヴァイオン専門の家庭教師になった。
アイリスも、二人がニールからヴァイオリンを習う時、一緒に混ざってヴァイオリンを学ぶ。
「ヴァイオイン、また一緒に弾こう?」
アイリスが、昔の自分でもあったティエリアの手をとる。
ティエリアは、アイリスそっくりの陽だまりのような微笑を浮かべて、アイリスの手を握り締め返す。
「あなたは今、幸せですか?」
「はい。僕は幸せです。あなたは?」
「僕も幸せです」
ソファーでうたた寝をしている刹那を見て、ティエリアはくすりと笑った。
「あなたの愛しい人ほど、愛は囁いてはくれませんが、愛されています」
「そっか」
アイリスとティエリアが並んでヴァイオリンを弾きだす。
そこに、少し遅れてリジェネが並んでピアノで演奏しだした。
二人もヴァイオリン演奏者はいらなかと、アイリスはヴァイオリンを止めた。そして、美しい音色のソプラノを口にする。

曲名はG線上のアリア。

アイリスだけでなく、ティエリアもリジェネも刹那も、そしてニールも大好きな曲だ。


アイリスとニールの間には、確かに人間とアンドロイドという、決定的な違いがある。
そこには、命ある人間と永遠を生きるアンドロイドの問題だってある。
アイリスは年老いることがない。ボディは一つだけで、ニールが年老いていっても永遠にアイリスは17歳のままだろう。
でも、二人はお互いに恋をし、人間とアンドロイドでもいいと納得しあって、結婚までしたのだ。
二人の指には、結婚指輪がいつも煌いていた。

アイリスは思う。
いつか、ニールと別れなければならないとき、アイリス自身の魂も消えるだろうと。

愛よ、永遠なれ。
そは美しきメロディなり。

ティエリア・アーデの紛い物。少女の紛い物。人間の紛い物。
かつては嘘だらけだった。
でも、今はただのアイリス。
アイリス・ディランディ。
愛する人の名はニール・ディランディ。

今日も、アイリスは陽だまりのような笑顔を浮かべて、ニールと一緒にティータイムをとったり、食事したりデートに出かけたりと、命ある者としての幸せを送っている。
アイリスには、きっと命があるんだろう。
魂だってあるだろう。

記憶回路がいる設計なのに、記憶回路もなしで動き、人と変わらぬ生活をおくるアイリス。
レプリカの心臓は今日も鼓動をうち、たくさんのことに胸をときめかせる。

作り物が全てじゃない。たとえ作り物でも、そこに心さえあればきっと人間に一番近い存在になれる。たとえ人間じゃなくても、愛された時人間と同じような存在になれるのだと、アイリスは信じている。ニールも信じている。
二人の絆は、もう消えることはないのだから。


アイリスとニールの小さな家の庭には、たくさんの花のアイリスが風に揺れていた。

                 The End  presented by Masaya Touha

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えっと。
アイリスって存在とニールEND。
かなり異色設定だけど。物語としてはいいかなぁと。
ほんとはもっと長く連載するつもりだったんだけど。10話になりました。


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