カラカラカラカラ。 風に靡く鯉幟を見て、フェルトは足をとめる。 「ああ、そんな季節なんだ」 「どうした?」 先を歩く刹那が歩みをとめる。 蒼穹の空を泳ぐ鯉幟。 「ううん。そういえば、刹那が日本に生まれていて、子供だったらきっと祝ってもらって時期なんだろうなぁと思って」 「どうでもいい。俺の故郷はクルジスタンだけだ」 鯉幟をを見て、風が吹きぬける音を感じてそのまま足を進めていく。 「あ、ごめんね。いやな気分にさせたら」 「そうでもない」 繋がれたままの手。 手の平から伝わる暖かい温度。 「帰ったら、鯉幟型のクッキー焼いてみようかなぁ」 「手伝おうか?」 「うん。一緒につくってみんなとティータイムの時に、配ろ」 カラカラカラカラ。 まるで風車がまわるように鯉幟につけられた回り細工がまわる音だけが大きく響く。 「行こう」 刹那が歩きだす。そのちょっと広くなった背中をみて、フェルトはまた鯉幟を見上げた。 「真紅――」 「ん?」 「刹那の色の鯉幟はおかあさんなんだって」 「お母さん――俺のイメージではないだろう」 「そうだね。刹那の真紅はきっと夕焼けだから」 「血かもよ」 「それでも綺麗だよ」 ルビーのように耀く刹那の双眸は、綺麗だ。 宝石よりも、きっと。 カラカラカラ。 蒼空が笑っていた。 |