ざわざわ。 ざわざわ。 集まる視線を、さも当たり前というようにグラハムは着替えていく。 アロウズでの訓練が終わったあとの男子更衣室。 いつものように、自分のロッカーの前でグラハムは汚れた戦闘服を脱いで、軍服を取り出した。 むさくるしい、筋肉だるまの男ばかりがひしめく中、グラハムは戦闘服の下もぬいだ。 シーン。 他愛もない談話に溢れ返っていた更衣室が、一瞬静まり返る。 「どうした。私のふんどしがそんなに素晴らしいか。なんなら、君たちの分も注文してプレゼントするぞ」 キラキラ輝くグラハムの言葉に、その場にいた誰もが「結構です」と言って、必死に首を振った。 今日のグラハムのふんどしは黄金色。 勿論、布は最高級の絹糸のオーダーメイドだ。 中央に、銀色で「少年命」という文字が入っていた。 少年とは、誰のことでもなく刹那のことである。 「この少年というのは、運命の出会いをした少年のことでな、私の好敵手なのだ。そもそも、ミスター・ブシドーという名前も・・・・」 周囲の男たちは、この空間から早く逃げ出したくて、競うように軍服に着替えると更衣室を後にした。 「ということであり、この少年とはまさに巡るべくであったのだ。少年はいつも私の上をいき・・・・」 まだ、金色のふんどし一丁の姿で、グラハムは熱弁を続けていた。 もう、聞いているものは誰もいない。 皆、逃げるように軍服に着替えて出ていってしまった。 「であるからして、その少年の瞳射抜かれた私は、もう身も心も少年のものなのだ・・・あれ?」 誰もいなくなった更衣室に気づくが、遅かった。 グラハムが、ふんどし一丁で少年について熱弁していた頃。 「はっくしょい」 大きなくしゃみを刹那は、操舵室でしてしまった。 「どうした、刹那、風邪か」 隣にいたティエリアが、刹那の額に手をあてるが、平熱だった。 「なんだが、ものすごい悪寒がする」 顔色も悪い。身を震わせる刹那の手を、ティエリアがとった。 「念のために、自室で休んでおこう。僕も一緒にいく」 「ああ」 二人は、一緒に刹那の部屋に向けて、宙を蹴る。 戦闘がいつふりかかってくるかも分からない中、体調を崩したくはない。 一方の地上では、グラハムが「少年よ」と目を潤ませて思いをはせていた。 その思いが届くことは、まずはありえないだろう。 |