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R18菌
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魚が泳いでいる姿を見るのは好きだ。
綺麗だと思う。
水族館に行くのは、密かなる楽しみ。重力は嫌いだけれど、水族館にいくと、重力といううっとうしいものから開放された心地さえ味わう。
地球は緑と蒼でできている。砂漠の茶色もあるけれど。
水の惑星と、最初に名づけたのは誰であるかを、ティエリアは知らない。
模型のネオンテトラが、水槽の中を泳いでいく様を、ティエリアは飽きることもなく見ていた。水槽といっても密閉されており、形は砂時計に似ている。
その中を、本物によく似た模型の、中は耐水性の機械でできているネオンテトラが赤と蒼の光を放って泳いでいた。
コポポポポ。
時折、砂時計型の水槽の中を、空気が音をたてて上昇していく。
飽きもせず、じーっとそればかりを見つめるティエリア。
ロックオンが、部屋の中に入ってきたことにさえ気づかない、彼。
夢中で、偽者のネオンテトラに見入っていた。
コンコン。
ロックオンは、自分の存在に気づいて欲しくて、壁を手でノックする。すると、ティエリアは紫紺の髪を宙にふわりと浮かせて、振り返る。
オレンジの色が混じったブラッディレッド。
真紅のようで、けれど刹那のような瞳の色ではない。刹那の瞳の色はルビーだ。真紅。血の色だ。
ティエリアの瞳の色はとても似ているけれど、少しオレンジがまじった、宝石でたとえるならガーネットの色。
石榴色だ。時折金色に色を変える、不思議な瞳が、ロックオンを捕らえた。
「いつからそこに?」
「さっきから、ずっと」
「きづきませんでした」
「気づいてほしくて、壁をノックしてた」
「すみません」
白皙の美貌が伏せられて、ロックオンの胸に、ポフリと、静かな音で額が押し付けられる。
サラサラと零れ落ちる紫紺の髪を、手ですいてロックオンはその額に口付ける。
そのまま、ティエリアは手を引かれてベッドに押し倒された。
「え」
ティエリアの視界が暗転して、天井を見つめ、それから圧し掛かってきたロックオンの茶色の髪で満たされて、ティエリアは一瞬自分が魚になったような心地を味わう。
ふかふかのベッドで、キスを受ける。
ティエリアは、横目でまだネオンテトラの模型が泳ぐ水槽を見ていた。
「あ」
その視界を、ロックオンが手で閉ざした。
何も見えなくなる。暗闇。
怖くはない。
包み込んでくる体温に、むしろ安堵する。
あのネオンテトラの泳ぐ、砂時計型の水槽を買ってくれたのはロックオンだ。地上に降りた時、じっとショーウィンドウに張り付いていたティエリアに溜息をついて、値段がけっこうはるのに買ってくれた。
それはロックオンの部屋に置かれてある。
ティエリアは、いつもロックオンの部屋で眠る。
一人で眠るのが怖いから。いつか処分されてしまいそうで。嗚呼ヴェーダ。何故、僕は私は人間ではないのだろうか?教えてください。
こんなにも、人間である彼を愛しているのに、本物の人間になれない。あの水槽の中のネオンテトラのように、きっと中には機械がつまっているんだ。
「あ」
声が、少し高くなった。
胸のない体のラインを確かめるように動くロックオンの、グローブを外した素手の感触がする。膨らみのない胸など、撫でて面白いのだろうか?ティエリアは軽く身体をよじる。
しつように撫でられて、肌は熱を持っていく。
胸の先端を口に含まれて、ティエリアの喉が鳴った。
「んあ」
糸をひくような、そんな甘い声。
鼓膜をうつ自分の声が酷く淫靡な気がして、ティエリアはロックオンに目隠しをされていたのに、その中でまだ開けたままだった瞳を閉じる。
「んっ」
唇をはう舌。
舌が口内に侵入し、歯茎をなぞるように動いてから、ティエリアの舌を絡め取った。
「んー」
与えられる唾液を飲み込んで、息が上がった。
「あ、あ」
服を脱がれていくのが分かる。
下肢が、大気にふれてやけに涼しくかんじて、ティエリアは身を強張らせる。
「力、ぬいて」
「むりです・・・・」
変わらず、目を覆われたまま。でも、いつの間にかその手は消えていった。それに気づくこともできず、ティエリアは石榴の瞳をきつく閉じていた。
膝を割られ、体重がのしかかってくる。
怖くないといえば、嘘になる。
いつになってもなれない、その行為に。
「あ、あ」
秘所を這う舌の動きに翻弄される。熱をもっていく内部が、酷く恥ずかしい。
舌で中を抉られて、足が引きつった。シーツを蹴る爪先。伸びた、綺麗に整えられたティエリアの足の指は、昨日ロックオンが悪戯でぬった赤と蒼のマニキュアが鈍く光っていた。
まるで、ネオンテトラ。
ぐりっと、中に指が進入する。最初は一本、次は二本。
どんどんと増やされる指はばらばらに動いて、ティエリアはシーツを指で引っかいた。
グリっと、中で暴れる指に、全てをもっていかれそうな気がした。
「もう、いいから・・・・」
情欲に染まった、ロックオンの翠の瞳と視線があった。
愛撫を施すその指の動きに翻弄されながら、耳朶にロックオンの吐息は熱く届いた。きっと、彼ももう限界なのだろう。
いつも壊れ物を扱うかのように、抱いてくれるロックオン。
身体を裏返しにされて、鎖骨に甘く噛み付かれる。全身に痺れににた快感が走る。背骨ごしに這う唇と舌を、ティエリアは目を閉じたまま感じ、それからロックオンにねだった。
「キスを・・・」
「分かった」
ゆっくりと、舌が絡まる。飲み込みきれなかった唾液が、顎から滴り落ちた。鈍く銀色に光る。糸をひいて去っていく舌。次の瞬間、熱いものに引き裂かれた。
「あぐっ!」
金色に変わった瞳が、天井を見上げ、ついでロックオンの茶色の髪をみて、ティエリアはその髪をかきあげた。
「力、抜いて」
「無理です・・・」
金色の瞳がオレンジがかった赤にかわる。いつもの色に。
ポロポロとたくさん涙が溢れて、零れていった。
「痛い!」
「もう少し、辛抱してくれ」
なかなか濡れることのない秘所を、奥まで引き裂いて、いったん動きを止める。身体を繋げるのは何週間ぶりだろうか。
唯でさえなれることがないというのに、期間が開けばそれだけ体は開かされたことを忘れていく。
「あ、あ、あ!」
嬌声が漏れる。ティエリアの高い艶を含んだ声に、ロックオンは汗を飛ばして突き上げた。
「や、や!」
ずり上がる身体を、体重をかけて、その白い細い足を片方肩に担いで、突き上げた。
「んあっ!」
びくんと、ティエリアの背がしなる。
中を抉るように突き上げて、入り口まで引いて、また挿入する。そんな行為を何度も繰り返した。
ロックオンの、荒い息遣いが聞こえる。
「ああっ!あ、あ、んんくっ」
ビクンと、痙攣するティエリアの体。中が収縮して、それに囚われてロックオンはティエリアの中に精を放つが、まだ終わらない。
「やー、やっ」
首を弱弱しくふるティエリアの胸元や首筋を吸いあげて、自分のものだという証を刻んでいく。
「も、いやぁっ」
ジュプリと。結合部から、いやらしい音が二人の耳を打つ。
「もう少しで終わるから」
「あ、あ!だめぇっ」
ズクリ、グプププ。
飲み込まれていく欲望の塊は、自分の体の中を出入りしていることさえ、信じられない。
中性なのに。女の子じゃないのに。少女じゃないのに。まして少年でさえもないのに。
あさましい。
自分も欲の塊だと、紫紺の髪を激しい律動で宙に回せながら、熱い熱い吐息を吐いた。
「も、もっと、奥まで。奥まできて!抉って、揺さぶって、めちゃくちゃにして!」
理性がはがれていく。
ロックオンに与えられる、快楽に酔いしれて。
「くっ」
ティエリアの言葉に、一際大きくなったロックオンの熱が、内部ではじけるのが分かった。
「くそ、お前エロすぎっ」
「あなたが、そうしたくせに!」
ティエリアは、うっすらとあけた瞳に涙をためて、ロックオンの背中に手を回して、爪を立てた。
「あーーー!!」
ぐいっと、奥にまで注ぐように動かれて、オーガズムの白い波に襲われていたティエリアは、全身を痙攣させた。
「うあっ。いやぁ!」
自分が自分でなくなってしまうようで。
ティエリアは、泣いて、啼き声もあげて必死でロックオンにしがみついた。
コポポポポ。
機械じかけのネオンテトラが、乱れ続けるティエリアを見ていた。
「んっ」
抜かれていくと同時に、彼の、命の種である体液が太ももを伝って流れおちる。
それと一緒に、ティエリアの瞳からも涙が零れた。
何度身体をつなげようと、この出来損ないの身体に命なんて、愛の結晶なんて宿らないから。
「ねぇ。ロックオン。僕はネオンテトラになりたい」
「ん?ああごめん、激しかった?」
「ううん。大丈夫。ただ―――」
「愛してるよ」
「僕も」
身を清めるために蒸したタオルで全身を拭かれながら、ティエリアは機械仕掛けのネオンテトラを見つめて、それからロックオンの頭を胸に抱いた。
「機械仕掛けの、ネオンテトラが見てるのに――」
「愛している、ティエリア」
唇が重なる。
嗚呼。
機械じかけのネオンテトラのように。この小さな箱庭で、永遠にニールと泳げたら。
ティエリアは、金色の瞳を、悲哀にそめて、目を閉じた。
いつか、彼とサヨナラしなければならないのに。
僕は人間ではない。人と同じ時間を刻むことはできない。
けれど、一緒にいれるこの瞬間の時間さえ、もっと長く長く続くようにと祈るのだった。
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