「寒くなったね」 吐く息はどこまでも白く、まで雪が溶けていくようだとフェルトは思う。 「寒いか?」 「うん、少し」 刹那の声に、はにかんで言葉を返す。 指がかじかみそうだ。 こんなことなら、手袋をしてくればよかったと今になって後悔する。 クリスマスの飾り付けが始まった街路樹を見上げる。 きっと、もう少しするとイルミネーションが綺麗に点滅する。 12月に入れば恋人たちが通り過ぎ去る一つのスポットになるだろう。 「はやく、イルミネーションが見れたらいいな」 「まだ早い」 刹那は自分のマフラーをとると、そっとフェルトの首にまく。 フェルトはマフラーをしていたけれど、刹那の体温がさらにフェルトを暖めてくれる。 「刹那、寒くないの?」 「俺は乾燥砂漠地帯出身だから平気だ」 今はない故郷のクルジス。 夜になれば氷点下まで気温は下がった。 厳しい環境で生きてきた刹那にとって、今はまるでぬるま湯につかっているかのようだ。でも、それが暖かくてもう戻れない。 あの頃には。 あの頃、生きるために人を殺していつもギラついた目をしていた少年は、恋人に笑顔を見せる穏かな青年となった。 どうか、イルミネーションが点滅するように、この気持ちも輝けばいい。 冬にまじる白い吐息に、言葉なく世界は閉じていくのだ。 |