苺と106回









じっ。
じーーーー。

夕食のトレイの皿に盛られた、果物である苺を食いいるように見つめるティエリアのその目。
もう、ほんとに苺しか視界に入ってないんじゃないかってくらいに。
それに、砂糖を少しふりかけるロックオンの手を、今度はみる。

じっ。
じーーーー。

フォークがゆっくりと動く。
苺にさされたフォークは、ロックオンの口に入ろうとして、そしてあまりの視線に耐えかねたロックオンがティエリアの口の前にもってきた。

「いいの、ですか。あなたの苺です」
「苺くらい、なんてことねぇ」

そういいつつ、久しぶりに出された苺の甘い味を味わいたかったのは本心である。
さくっとさすと、ティエリアは子供みたいに口をあけてそれを待つ。
すでに彼は、自分の分の苺を平らげたどころか、アレルヤと刹那の分の苺まで、食い入るように見つめ、根負けした二人に苺をのせた皿をもらって食べてしまった。

3人分を食べても、まだ足りないのか。
どれだけ果物が好きなんだろうか。
今日、夕食に出されたのは、ティエリアの嫌いな原型を留めた焼き魚定食。

「こんなもの、人が食べるものではない!」

そう断言して、ぺっと、丸焼きにされたサンマをロックオンの皿にのせた。
お腹も多分、食べていない分減っているのだろう。
昔のように、ビタミン剤や栄養ドリンク、ゼリー状のサプリメントで夕食をすませていたことを考えると、好き嫌いくらい容認してやってもいい。ああ、兄貴泣かせのティエリアの生態。
未だに一部謎に包まれている。

ジャボテンダーに殴りかかり、何をしているのかと聞いたら、ワルツの練習ですとまじめな顔で返されて、答えに戸惑った。
未だに生態は謎に包まれている。
ほぼ24時間一緒にいるというのに。

「ごちそうさま」

トレイを片付けて、ティエリアは隣の椅子に座らせていたジャボテンダーを振り回し、それでアレルヤの頭を殴った。

「ちょ、何するのさ!」
飲みかけだったコーヒーを少し零してしまったらしい。

「ジャボテンダーさんが、僕の分までお礼をいっていたのだ。ありがたくうけとれ」
ばしばしと、アレルヤの頭をジャボテンダーで殴る。
愛情なのだろう、多分。
多分。

ここにドクター・モレノがいれば、聴診器を内臓や心臓ではなく、ティエリアの頭にあてたことだろう。

「いきましょう、ロックオン」
ばしっと、ジャボテンダーで背中を叩かれながら、苦笑する。
「ティエリアの生態は、いつまでも謎だなぁ」
「な。僕を、宇宙フグや宇宙人やバルタン星人や火星に住むタコと一緒にしないでください」
その言っている内容を理解するのも、かなり根気と努力がいるが、ようは阿呆とその一言でしめくくれば終わる。ロックオンも同じ阿呆。

朱に交われば紅くなる。
まさに、その通り。

「火星のタコは白いすみをはくんだ」
「ほう。新発見だ。メモっておかなければ」
IQは180をこえて、その知能の高さはCB一。プログラミングなどの難しいことを任せるにはティエリアに限ると評判なのに。戦術予報の補佐までできる彼は、頭はいいが阿呆だ。
常識というものを、生まれた時に欠落してこの世に誕生したんだろう、多分。
ロックオンはそう思うことにした。
これで、そう思うことにしたこと、106回目だった。