睡眠不足にはきく(3期)









「睡眠不足気味なの」
フェルトの、少し迷ったような声に、刹那は真紅の瞳で一言。
「俺に任せろ。俺の子守唄を聞けばすぐ寝れる」
「そ、そう?じゃあお願いしようかな」
まだ夕暮れの時間。宇宙だから、夕焼けはみれないけれど、変わりに星の瞬きが、窓の外を支配している。
遠くに見える地球。
また、ミッションがなくても定期的にトレミーは地球に下りるだろう。
世界を見守り続けるために。

フェルトは、制服ではなくもっとラフな格好に着替えるた。パジャマは洗濯中だ。
ティエリアの影響があって、なぜか柄はジャボテンダーになってたりするが。刹那のパジャマも、っていうか、トレミーにいる皆のパジャマはジャボテンダー柄。
制服を導入したように、恐ろしい支配力でパジャマの柄のジャボテンダー化を進めたティエリアは、今日もロックオンの部屋で彼をジャボテンダーで殴っているのだろう、多分。
ジャボテンダー流、愛の秘儀。
わけのわからないことを、このまえ言っていたような気がする。
寝ようとすると、そんなことが気になって眠れない。不安があるわけではない。何故、ジャボテンダー柄のパジャマなのか。マクラのシーツもジャボテンダー柄なのに、他は自由。
何故枕のシーツだけ。
考え始めると止まらない。
ジャボテンダーの名前が何故ジャボ子さんなのか。なぜ息子がジャボリー君なのか。
だめだ、堂々巡りになってきてまた眠気が消えうせた。

ぎんぎんに冴え渡ったフェルトの横で、任せろと言っていた刹那は寝息も立てずに寝ているではないか。
これでは、刹那を呼んだ意味がない。

「刹那、おきて!子守唄は!?」
「………違う、ジャボ子は不倫なんてしてない…ぐーぐー」
ジャボ子とは、刹那のもつジャボテンダーの名前だ。
フェルトは、ティエリアのジャボテンダーにすでに汚染されまくっている刹那の頭を、枕でべしっとはたいてみた。
彼は真紅の瞳をあけて。
「ああ、寝てしまったのか、俺が」
「そう。子守唄・・・」
せがむような、フェルトの視線。
刹那が歌を歌う場面など見たことがない。だから、ただ聞いてみたい。
青年に成長した刹那はボーイソプラノを、ティエリアのように出すことはできないだろう。きっとテノールの低い声で歌うんだろうとか、想像してみた。

「では。題名は「俺はガンダム」を歌おう」
いやな気がした。
でも、もう遅かった。

「おーれはガンダーム、ガキ大将じゃなくってガンダム大将!ホゲ〜〜〜ホゲゲゲゲゲ〜〜〜ホゲレレレ〜〜〜ホゲレア〜〜〜〜♪」

フェルトは寝た。それはぐっすりと。
音痴すぎる、ドラえもんのジャイアンの歌より酷いその声を聞いて、沈没した。
目を回して、そのまま、気絶。
一応、寝たことにはなるんだろう。

刹那は自分の世界に浸って、ひたすら。

「ほげ〜〜〜〜ほげげげ〜〜〜」

その日、トレミーでは刹那の歌声を聴いた者全てが活動をやめて、失神したという。
もう、トレミー中に響き渡る、防音も意味もなさないその破壊音に、クルーすら失神して、トレミーは半日自動稼動し続けた。
一番酷い被害をこうむったのは、ガンダムの修理をしている最中にその歌を聞いたイアンだろうか。
重い工具を足に落として、足の骨に皹が入ったとか。

恐ろしき、CBの最終兵器。
過去にティエリアが、敵の基地に刹那の歌を流して壊滅させたことがある。
まさかに核爆弾。

その刹那は、自分の歌がとてもうまいと信じているのだ。