「睡眠不足気味なの」 フェルトの、少し迷ったような声に、刹那は真紅の瞳で一言。 「俺に任せろ。俺の子守唄を聞けばすぐ寝れる」 「そ、そう?じゃあお願いしようかな」 まだ夕暮れの時間。宇宙だから、夕焼けはみれないけれど、変わりに星の瞬きが、窓の外を支配している。 遠くに見える地球。 また、ミッションがなくても定期的にトレミーは地球に下りるだろう。 世界を見守り続けるために。 フェルトは、制服ではなくもっとラフな格好に着替えるた。パジャマは洗濯中だ。 ティエリアの影響があって、なぜか柄はジャボテンダーになってたりするが。刹那のパジャマも、っていうか、トレミーにいる皆のパジャマはジャボテンダー柄。 制服を導入したように、恐ろしい支配力でパジャマの柄のジャボテンダー化を進めたティエリアは、今日もロックオンの部屋で彼をジャボテンダーで殴っているのだろう、多分。 ジャボテンダー流、愛の秘儀。 わけのわからないことを、このまえ言っていたような気がする。 寝ようとすると、そんなことが気になって眠れない。不安があるわけではない。何故、ジャボテンダー柄のパジャマなのか。マクラのシーツもジャボテンダー柄なのに、他は自由。 何故枕のシーツだけ。 考え始めると止まらない。 ジャボテンダーの名前が何故ジャボ子さんなのか。なぜ息子がジャボリー君なのか。 だめだ、堂々巡りになってきてまた眠気が消えうせた。 ぎんぎんに冴え渡ったフェルトの横で、任せろと言っていた刹那は寝息も立てずに寝ているではないか。 これでは、刹那を呼んだ意味がない。 「刹那、おきて!子守唄は!?」 「………違う、ジャボ子は不倫なんてしてない…ぐーぐー」 ジャボ子とは、刹那のもつジャボテンダーの名前だ。 フェルトは、ティエリアのジャボテンダーにすでに汚染されまくっている刹那の頭を、枕でべしっとはたいてみた。 彼は真紅の瞳をあけて。 「ああ、寝てしまったのか、俺が」 「そう。子守唄・・・」 せがむような、フェルトの視線。 刹那が歌を歌う場面など見たことがない。だから、ただ聞いてみたい。 青年に成長した刹那はボーイソプラノを、ティエリアのように出すことはできないだろう。きっとテノールの低い声で歌うんだろうとか、想像してみた。 「では。題名は「俺はガンダム」を歌おう」 いやな気がした。 でも、もう遅かった。 「おーれはガンダーム、ガキ大将じゃなくってガンダム大将!ホゲ〜〜〜ホゲゲゲゲゲ〜〜〜ホゲレレレ〜〜〜ホゲレア〜〜〜〜♪」 フェルトは寝た。それはぐっすりと。 音痴すぎる、ドラえもんのジャイアンの歌より酷いその声を聞いて、沈没した。 目を回して、そのまま、気絶。 一応、寝たことにはなるんだろう。 刹那は自分の世界に浸って、ひたすら。 「ほげ〜〜〜〜ほげげげ〜〜〜」 その日、トレミーでは刹那の歌声を聴いた者全てが活動をやめて、失神したという。 もう、トレミー中に響き渡る、防音も意味もなさないその破壊音に、クルーすら失神して、トレミーは半日自動稼動し続けた。 一番酷い被害をこうむったのは、ガンダムの修理をしている最中にその歌を聞いたイアンだろうか。 重い工具を足に落として、足の骨に皹が入ったとか。 恐ろしき、CBの最終兵器。 過去にティエリアが、敵の基地に刹那の歌を流して壊滅させたことがある。 まさかに核爆弾。 その刹那は、自分の歌がとてもうまいと信じているのだ。 |