ジーワジーワと、日差しが高くなつにつれて蝉の鳴く音が大きくなってきた。 吹く風は乾いていて、じっとりとした暑さに汗を流すしかない。 遠くから、チリリンと、風鈴の音が優雅に聞こえてきた。ロックオンとティエリアは、手を繋いで、麦藁帽子を被ったまま時折民家の見える田園風景が中心となった道を歩いていく。 刹那の暮らす東京から少し離れれば、まだこうした開発されていない、緑化を心がけた政府によって森や田んぼといったものが昔ながらに形を留めて残っていた。 「暑くないか?」 「暑いです。溶けそうです。どろどろ。ああ、ジャボテンダーさんも溶けていく」 ティエリアは、背中にジャボテンダーを紐でくくってしょっていた。 そんなに重量はないのだが、今は鞄に改造されてしまっているので、ちょっとした小物が入っているのでいつもよりは少し重いかもしれない。 空を見上げれば、棚引く白い雲に紺碧の空。 そして向日葵のように優しい眩しい太陽が目に痛かった。 蝉のなく音が、緑のざわめきと一緒に大地に落ちて、反響するように耳に飛び込んでくる。 夏の音だ。風鈴も、夏の音。 「お、あそこにバス停がある。ちょっと休憩しようか」 「はい。そうしてください」 すでに夏の暑さにばてたティエリアは、麦藁帽子を被ったまま歩くペースを少し速めた。 バス停のすぐ側に、自販機を発見したからだ。 喉は、これでもかというほどに渇いている。もってきたペットボトルのお茶はもう飲み干して、一滴もなくなってしまった。 早い歩きから、次第に走りにかわっていくペース。 そして、ロックオンを置いて、バス停にくると、自販機の前にきて、コインを入れてソーダを2つ買うと、その冷たさに、自販機がここにあったことに心から感謝する。 早朝から歩き始めて、もう日は大分高く昇り、多分時間にすると午前の10時頃だろうか。 田園風景を見ながら、ロックオンと他愛もなく会話をして、自然と戯れながら歩いていたのだが、いつもは宇宙空間で生活しているティエリアには少しきつかったかもしれない。 でも、ロックオンとこうして時間を過ごせることが嬉しくて、疲れはあまり気にならなかったけれど、喉の渇きばかりはいかんともしがたかった。 「はい、ロックオン」 「サンキュー」 手渡されたドリンクをの蓋をあけて、飲み干す。炭酸がきいていて、リフレッシュにはもってこいだった。二人して、バス停の日陰のベンチに座って、ソーダを飲んでいく。 「ほら」 ひやりとした感触が、ティエリアの頬にあたった。 「冷たいです」 ティエリアは僅かに微笑んだ。 すでに飲み干してしまったソーダ。残りを、ロックオンがくれるという意思表示であった。 素直に受け取って、コクコクと喉を鳴らして残りを飲み干して、やっと一息ついた。 「もう10時か。そろそろ刹那の家に戻るか」 「そうですね。もう、歩けません」 「ごめんな。つきあわせて」 「いいえ。誘ってくれてありがとうございました。日本の夏は嫌いではありません。ただ、少し暑すぎるかと」 「確かにそうだなぁ。今年は猛暑らしいから」 全国各地で、水難事故や熱中症で倒れたり死んでいる人があいついでいると、新聞を読んで知った。 CBからもらった夏季休暇を、刹那の家で過ごすと決めた二人。とうの刹那は、勝手にしろとばかりに一人で家の中で惰眠を貪っている。 クーラーが効いた部屋で寝るのが刹那の常識。日本の夏の過ごし方。 「帰ったら、スイカも冷えてだろうし、刹那を起こして3人で食べようか」 「はい」 ティエリアはまた笑顔を浮かべるのだった。背中のジャボテンダーを背負いなおして、バスがくるのを二人でひたすらまった。 のどかすぎる時間が、平和に過ぎていく。 ミーンミーン。蝉の音が少し遠のいていた。 夏は、まだ始まったばかりだ。 |