スイカ









「刹那のほうが大きい!」

することもなく、田園地帯を歩いてきたティエリアとロックオン。早朝に出かけて、本当は涼みにいくはずが、自然の中を歩いていくうちに日は高くなり、暑くなって、もってきたペットボトルのお茶もつきて、途中でバスに乗って引き返してきた。
元々、何処に行くというあてさえない、ただの散歩だった。
4時間も歩けば十分だろう。
ティエリアもロックオンも、被っていた麦藁帽子を、居間の机の上においていた。
ロックオンとティエリアは、刹那の家に居候していた。夏季休暇の間、日本の東京で過ごそうと二人で決めたのだ。それに反対する刹那ではないし、好きにすればいいと二人に言い放って、だらだらした毎日を過ごしている。

「大きくない。普通だ」

刹那は、自分の分のスイカを死守しようとしている。
ティエリアが、冷蔵庫から出して切り分けてくれたロックオンが、渡してくれたスイカの、刹那の分が自分より大きいと騒ぎ出したのだ。

「僕はジャボテンダーさんの分まで食べる責任がある!とりかえろ!」
「俺はガンダムの分まで食う責任がある!」

二人でいがみあう。
これでも、二人はれっきとしたガンダムマイスター。
二人が言い争っているその内容も、非常に理解しがたいものであるが、ようは大きいスイカのほうを食べたいのだとははっきり分かって、ロックオンは溜息をついた。

「ほれ、ティエリア、おれの分半分やるから」
「いいんですか?」
「ああ、いいよ別に」

スイカに未練があるわけでもない。ちょうど、3人分に切り分けて、スイカはもう残りはなかった。
ロックオンは、包丁をもってきて、自分の分を二つに分けると、それをティエリアの皿においた。

「ありがとう」
「どういたしまして」

チリリンと、ぶら下げられた風鈴が綺麗な音を立てた。
そのまま、縁側で三人でスイカを食べて、それからすることもないので3人でごろごろしだす。冷房をいれたので、節電のために縁側の戸締りをしてから、刹那は床で、ティエリアとロックオンは床で昼寝をしだした。

「はぁ。僕の存在、思いっきり忘れられてる」

やっと、刹那の庭の雑草をむしり終わって、汗だくになって戻ってきたアレルヤは、同じように夏季休暇を刹那の家で過ごすと決めたのに、その存在は果てしなくKY(空気読めない)もしくは空気そのものだった。
スイカだって、アレルヤの分なかったし。

「まぁいいけどね」

アレルヤは、シャワーを浴びて着替えて出てくると、ロックオンがキッチンの椅子に座って、タオルを投げてくれた。

「ご苦労さん」
「ありがとう、ロックオン」
「ほれ、特別サービスだ」

ロックオンが、冷凍庫からスイカバーを取り出して、それをアレルヤにあげた。
アイスはもう在庫がつきて、今日の午後にはロックオンとティエリアが買い物にいくついでに買い足す予定ではなかったのだろうかと、アレルヤは首を捻る。

「さっき、コンビニまで行って来た」
「そんな、わざわざ?」
「ずっと雑草一人でむしってたんだろう?ほんとにお疲れさん」
「いえ」

アレルヤは照れて、アイスのスイカバーをいったんテーブルにおいて、髪をタオルでふいていく。

「あ〜〜〜〜」
「何してんだ刹那?」
「眠りすぎて暇なので、扇風機で遊んでいる」

刹那が、隣の部屋で扇風機をまわして、それにむかって声を投げていた。
まぬけな声が聞こえる。

「あ〜〜〜〜」

いつの間に目覚めたのか、ティエリアが刹那の隣で真似をしだした。
本当に、この年少組みはなんというのか。
かわいいとしか、言いようがない行動をとるのだから。
ロックオンとアレルヤは、苦笑いして、そんな二人を見守るのだった。今年も夏季休暇は、平凡にそれでも幸せな時間として過ぎていくのだった。