ゆらゆら湯気をたてるティーカップ。白い真っ白な陶磁器。 2人でお揃いにと買った、ただの日常品。そんなに高くないし、そんなに安くもない。ありふれているようで、どこにでも売っているわけでもない。 中途半端。 中で揺らめく金色の液体が、波紋をたてる。それにいくつか薔薇の花弁を散らして、ゆっくりと傾ける。 口中に広がるほのかに甘い味に、少しだけ微笑んだ。 「おかわりは?」 「いりませんよ」 同じティーカップを傾けるロックオンの言葉を柔らかく断る。 「かして」 半ば無理やりロックオンの飲みかけのティーカップの液体にも、薔薇の花びらを浮かばせてみた。 「そんなことして。飲むとき邪魔になるだろうに」 「雰囲気ですよ。香りを楽しむんです」 「俺はお前と飲むのを楽しんでるの!」 子供のような仕草と言葉に、ティエリアは白皙の顔をあげて、笑った。 けらけらと、室内に落ちる音を零すティエリアこそ、子供っぽい。 それでも、女王のように優雅にティーカップを傾ける姿は絵になった。彼のためだったら、専属の執事になっていいとさえもロックオンは戯れに思う。 もっとも、お嬢様と呼ぶだろうが、自分の場合。 中性の天使のような彼には性別がないのだが、勝手に少女だとカテゴライズしている。 だから、お嬢様。 ゆらゆらと揺られるティーカップの中で、薔薇の花弁が紅茶の波を受けて、底に沈んでいった。 |