ぼとぼとぼとぼと。 ココアに入れられる、たくさんの角砂糖。 まぜまぜぜまぜ。 スプーンでかき混ぜられる。 砂糖はもう溶けることもできなくって、ココアの甘味は体の疲れを癒してくれる限界をこえて、ねっとりとしてもう何の液体が分からなくなっている。 ねばねばねばねば。 まるで納豆をかき混ぜるように、溶けることのできなくなった砂糖は、ココアの水分をすいとってねばねばとしている。 「はい、ロックオン」 「お、おう・・・」 ぼけーっと、寝ぼけ眼でココアを作られて、嬉しいのだけれどはっきりいって飲みたくない。 あまりに糖分が高すぎると、ロックオンは心の中で嘆いた。 糖尿病にならないといいけどな、俺。 とりあえず、空中で十字を切る。アーメン、俺。 渡されたのはもう手に馴染んでしまった、白い上品なティーカップになみなみと注がれた、茶色のココアだったはずの液体。 最後には、ティエリアはあくびをしながら、塩をいれてコショウまで入れていた。 料理の腕、壊滅的だけれど彼は。でも、紅茶を入れるのはうまいし、ココアをこうして飲みたいと言ってくれた時、二人分作って、優しくカップを手渡してくれるその仕草が好きだ。 朝だといつも欠伸をしている。 昨日も顔を磨いて歯を洗っていた。 どこをどうすれば、そんな器用なことができるのだと思うが、ティエリアは立ったままでも寝る。一度電源が切れたように動かなくなって、焦ったことがある。 立って、目を開けたまま寝ていたのだ。 流石にその時はドクター室に運んだけれど、ただ本当に寝ていただけだった。寝不足というわけでもない。なのに、彼はよく寝る。 そして寝ぼける。更に低血圧で、朝起きるのが億劫そうな毎日を過ごしている。 「なぁ、ティエリアは飲まねぇの?」 ティエリアの分も、テーブルの上にはある。 「ああ・・・・・・」 ふぁ〜と、小さく欠伸をして彼ははっきりこうのたまった。 「これはアレルヤに飲ませてきます。作り方間違えましたから」 おい、はっきりいったな、おい! その間違ったの、俺にも渡したよな!? 愛か! 俺は愛をためされているんだな!? 「お、おう、俺は飲める、いくぞおおお」 まるでガンダムに乗って宇宙の海に出発するような勢いで。 飲みました。 ザー。 口から、甘さが噴火したココアが流れていきます。 「ぐー・・・・・・」 真っ白になったロックオンのすぐ前の席で、ティエリアは眠りへと旅立っている。 ロックオンは愛の試練を受けたわけではなかった。そして、数分でこちらの世界に戻ってきたティエリアは、また欠伸をして、意識不明になったロックオンを乱暴にベッドに寝かせると、部屋を後にした。もう一つの作り方をミスったココアを、アレルヤに飲ませるために。 「アレルヤ、ココアを作ったんだ飲まないか」 「ああああ、またそんな恰好でトレミー歩いてるし!!」 アレルヤは顔を真っ赤にしていた。ロックオンのシャツ一枚だけ、下半身は下にパンツだけというこれまた、ベタな恰好でトレミーを歩き回った彼の後には、鼻血を出した死体が点々と残されていた。すれ違ったクルーたちだ。真っ白な肌が、華奢な肢体の曲線を美しさを余計に際立たせていた。 「ぐー・・・・」 「こんなとこで寝たら風邪ひくよ。とりあえずありがとう、飲むね・・・・・・」 合掌。 ロックしていない扉の向こう側に、カップをもったまま、アレルヤは白目をむいて倒れた。その衝撃で、数秒の眠りから彼は目覚める。 「はぁ。ロックオンの部屋に戻って、もっかい寝よう・・・・」 ロックオンがその場にいたら、ティエリアを隠してしまうような、いかにも同棲してますといった恰好で、またティエリアはトレミーを歩きだす。足が寒かったので、アレルヤの部屋からふかふかのスリッパを勝手に拝借して。 ロックオンの部屋に戻ると、彼はまだ気絶していたのであった。 |