射撃(3期)









ドン、ドン。
小さな音と火薬の匂い。

射撃訓練場で、ロックオンは腕がなまることがないように射撃の訓練をしていた。隣には、ティエリアが同じように銃を構え、発砲する。

姿勢は整っている。手もぶれていない。

小刻みに動く的の中央より右上を射抜く。ちょうど、心臓がある位置だ。

「ティエリア、ティエリア、命中、命中!」

ハロが、ティエリアのいる床の近くをコロコロと転がって行った。

「こーらハロ、それは俺の台詞だ!」

ティエリアは、まだ射撃を続けていた。

終了のブザーがなり、的が近くによってくる。

正確に射抜けたのは3つ。7回発砲して、残り4つは的の中心から離れた人間でいえば手足のあたりをかすっているかんじだろうか。

「やはりあなたには適いませんね」

ティエリアは、ただでさえも重い銃をコトリと台の上に置いた。

「ティエリア用にカスタムしてない銃だからな。俺用のだから。それでここまで撃てれば大したもんよ」

にっと笑って、ロックオンはティエリアの頭を撫でる。
ティエリアは、無言で目を閉じた。

次に開ける前に、唇が重なる。

ロックオンの片方の目は眼帯がされたままだ。ティエリアを庇ってできたその傷は、眼球そのものが致命的で、すでに手術で摘出してある。流石の医学でも、目の再生はまだできない。

「あなたの目がちゃんと見えれば、こんなことには」

ロックオンの的は7つ中2つ外れていた。彼の昔の腕を考えれば、信じられないことである。

ティエリアは、離れていく唇に手で触れて、それからロックオンと目をそらせる。

流石のロックオンも、片目だけでは昔のように全ての的を、正確に射抜けなくなっていた。それが自分のせいであると誰よりも分かっている。

愚かなロックオン。でも優しいロックオン。

「ロックオン……ニール」

「なんだ?」

「ごめんなさい」

「もういいって。遠い昔の話だろ?何年も前のことだ。もういいんだよ、ティエリア」

「それでも、僕はあなたに無傷でいてほしかった」

「生きてるだけじゃだめか?」

「いいえ!いいえ!あなたが生きていると知った時、どれほど僕は・・・」

「だから、さ。もういいんだよ、全部。ソレスタルビーイングである俺もライルもアレルヤも刹那も。みんなみんな、抱えるもんもってここにまた集ってるんだからさ」

「僕は、あなたの示唆した未来通りに時を動かせただろうか?」

一人、首をかしげる。

サラサラと紫紺の髪が、ロックオンの手から滑り落ちていく。

「ああ。刹那と一緒に歩んできてくれただろ。ここまで」

「はい」

手を握られる。

ロックオンの意志を継いだ刹那。そしてリーダーシップをとったティエリア。それについてきてくれたアレルヤ、そしてたくさんの仲間たち。

もう、この世界に戦争はほとんどない。

彼らガンダムマイスターの出番はない。それでも、ソレスタルビーイングは存在し続ける。世界をそっと見守りながら。

「重いことはもう考えなくていいんだ。それより腹減った。食堂行こうぜ」

ロックオンは銃を台にしまうと、ティエリアを置いて射撃訓練室を出た。

「待ってください!」

慌ててティエリアがあとを追う。

サラサラと、紫紺の髪が宙を舞う。

「そんなに気にしてるなら、今日はティエリアの驕りな」

「かまいませんが。でも、一緒に食べましょう」

やっと、ロックオンの背中に追いついた。ティエリアは、振り返ったロックオンに手を握られて、食堂へと足を向けるのであった。