カチンコチン。 ティエリアは固まってしまった。 いつものようにロックオンの部屋で寝泊まりをして、朝はジャボテンダー体操を二人でアホよろしくこなして、パジャマから着替えて、いつもの服装になって食堂に向かったはいい。 明るいピンク色のセーターが、無重力の中ふわふわ泳いでいる。ロックオンが背後からティエリアの手をとって、食堂へと向かわせる。 ティエリアの手の中には、いつも通りのジャボテンダーの抱き枕があった。 もう見慣れてしまった光景。 B定食を頼み、でてきたランチをロックオンがティエリアの分までもって、席についた。ティエリアはというと、ジャボテンダーが今日もよく光合成ができるようにと、人工ライトの下に置いた。ジャボテンダーの特等席であるそこには、人工のライトとジャボテンダーが座る(?)ことのできる大きな椅子が置いてある。ティエリアはいつもそこにジャボテンダーを椅子に無理やり座らせた。 「ジャボテンダーさん、今日も葉緑体の活動はよろしいようで。昨日より葉緑体が2000以上増えて活動していますね」 ペコリとジャボテンダーにお辞儀をする。その行動を見て、すでに食事をしていたアレルヤ、刹那は笑いをこらえて、吹き出すのを我慢しているため全身がぷるぷる震えている。 「えっと。では今日はコーラでいいですね?」 答えはない。ジャボテンダーはただの抱き枕だ。それを人間扱いするティエリアのアホさは、かわいいだけで被害はあまりロックオン以外には及ばない。 コーラのジュースをコップに並々とついで、ティエリアはそれをジャボテンダーの前に置いた。 それから、ロックオンの隣に座る。 カチンコチン。 ティエリアは固まってしまった。 ししゃもがそのままの形で、トレイの上に乗っているのだ。ティエリアが大嫌いな、原型を留めてしまった魚が。 「こ、これは世界の悪意が!」 いやそれ、ただのししゃものフライだから。 携帯するべきだったと、銃を探してもない。こんな日常生活に銃など必要ないからと、戦闘時か緊急時以外は銃は身についていなかった。 「ロックオン!世界の悪意だ!歪んでいる!今すぐに駆逐すべきだ!」 「はいはい」 ロックオンは、ティエリアの分のトレイにのっていたシシャモのフライを、自分のフォークで突き刺すと、一口で食べてしまった。それを見て、ティエリアは安堵する。 「世界の悪意は消えました。これで安心できる」 ししゃもが世界の悪意なら、海は世界の悪意で満ち溢れているだろうさ。 ロックオンはそう思ったが、何も言わずにかわいい恋人のアホさを、ただかわいいなと思うだけだった。苦笑しながら、ロックオンはティエリアに席に戻るよう促した。 「目標駆逐したぜ。ほら、座って」 「はい」 そして、二人して食事を始める。 そんな日常。 海鮮物の姿には結構慣れてきたはずなのに、まだ魚はだめみたいだと、ロックオンはティエリアの頭を撫でながら、そんなことを考えていた。 「はっ!世界の悪意を食べたロックオンも世界の悪意に!?」 身構えるティエリア。 「おいおい」 ロックオンは、もう食事を終えてしまっている。いろいろ考えていたティエリアはまだ食事中だった。 「俺が世界の悪意だったらどうするんだ?」 「僕が・・・・駆逐します。ジャボテンダーで!」 ティエリアも食事を終えた。そして、ジャボテンダーをもって、それでロックオンを追い掛け回す。 はたから見れば、ウフフアハハと、二人して遊んでいるように見える。そう見えるのだから仕方ない。 「アレルヤ、いこうか。胸焼けがしてきた」 「刹那。同じだね、僕も胸焼けが・・・・・」 刹那とアレルヤは食堂を去っていく。 その時、緊急事態に陥った。 敵艦が近づいているというのだ。 ロックオンが舌打ちする。ティエリアは、ジャボテンダーを放り投げて、顔つきから改まってまるで別人のようだ。 「ロックオン。先に出撃します。デュナメスは、僕のあとから発進してください」 いつものアホくてかわいいティエリアはそこにはいない。 ガンダムマイスターとして、ヴェーダとのリンクが切られようとも、一人の戦士としてのティエリアがそこにいた。 大人びた表情と、柘榴の瞳を瞬かせて、ノーマルスーツに着替えるべく食堂を先に去っていく。 「まったく、ティエリアの変わりぶりにはいつも驚かされるぜ」 ガンダムマイスターである、ティエリア・アーデは、ガンダムマイスターとしての存在が必要とされると、別人のように厳格になる。 だが、そこもロックオンにとっては愛しい部分なのだけれど。 敵との戦闘は、間もなく開始された。 「ティエリア・アーデ、出ます!」 「デュナメス、目標を狙い撃つ!」 帰還すれば、またいつもの平和な日常に戻れるのだが。 厳格なティエリアも、ロックオンは愛している。かわいくアホで、そのくせIQだけはやたらと高いティエリアのことも大好きだ。 今は、とりあえず戦闘を終了させることだけを考える。ししゃもではなく、現実の世界の悪意を断ち切るために。 |