ティエリアは日曜になって、暇だったので町をぶらついていた。 「彼女、かわいいね。暇?」 いつものように男に声をかけられる。 無論ティエリアは無視して歩き続ける。 お洒落をしなさいとアレルヤが煩いので、ロングスカートというちょっと歩きにくい服装で出てきたのがダメだった。歩くのに疲れる、この服装は。いつものようにズボンかジーンズにするべきだった。 アレルヤはかわいい服をみると絶対ティエリアに似合うからと、長身のティエリアに似合いそうな服を買ってきてはティエリアにプレゼントしてくれる。 全部、元はアレルヤのバイト代から出ているので拒否するのも悪いし。 こんなことなら、アレルヤか刹那でも連れて一緒にくるんだった。 でもアレルヤは課題があるからと部屋にこもっていたし、いつものように家に遊びにきていた刹那は買ったばかりのプレステ3のソフトに夢中になってプレイしていたし。 元はといえばあのゲームはティエリアのものなんだが、刹那はお構いなしでプレイする。 刹那はもう一人の家族だ。 よく家に泊まるし、ティエリアを異性としてみていない。 ティエリアも性格が男なので、刹那を異性としてみていない。アレルヤのことは少し気になるといえば気になるけど、その程度の問題。 恋とかそんなのどうでもいい。 道ばたに転がった石程度のものと、ティエリアは思っている。 ああ、早く帰って、刹那と新しくかった格闘ゲームで刹那をこてんぱんに叩きのめしてやろう。それとも二人でプレイのできるアクションRPGでボスでも倒そうか。 刹那がプレイしているRPGのシナシオの続きを、刹那がプレイするとを見ながら漫画を読むのもいいな。 女の子、という意識にかけたティエリア。 遊ぶ友達は男の子ばかり。大抵刹那の友達。女の子の友達もいるけど、会話の内容についていけない。昨日のドラマの俳優がかっこよかったとか、新しいアーティーストの新曲が良かったとか、ファッション雑誌のあの服が良かったとか。 新しく発売されたあの化粧品はいい、携帯で見れるあのイケメンのアイドルのプログ更新されてたよとか。 とにかく、内容についていけないし、面白くない。 一緒に行動してもなんだかかわいい店に連れて行かれるだけで、それを選んでキャアキャアいう彼女たちの心情が理解できないし、理解しようとも思わなかった。 「彼女、かわいいね」 「万死」 一言だけ与えて、ティエリアは道を進んでいく。 喉が乾いた。 どこかカフェかファミリーレストランで休憩しようかな。 「はーい、彼女かわいいね」 「万死」 「彼女一人?」 「万死」 「君、暇?」 「万死」 「あ、俺実はこういう者で」 「万死」 芸能プロダクションからのスカウトだった。 それさえも無視して、ティエリアは信号が赤に変わったので、そこで立ち止まった。 ティエリアの足を止めることができるのは信号くらい。 刹那がよくそういっていたのを思い出した。 「よ、一人?」 「万死」 「そんなつれないこというなよ」 「死ね」 「きっつー」 「なら声をかけるな」 男の顔など見てもいない。 「ティエリアちゃん」 「な」 なぜ名前を知っていると叫ぼうとして、ティエリアは振り返る。 そこにいたのは英語の臨時講師ニール・ディランディだった。 「あなたは街で少女をナンパするのか」 「いや」 「このロリコンめ!」 確か、ニールは24歳だった。 十代の少女をナンパするなら、ロリコンといってもいいかもしれない。 「いや、違うって。買い物の帰りにたまたまティエリアの姿見つけたから」 「そうか。僕はあなたに用はない。さようなら」 「ちょ、まじかよ」 信号が青に変わった。 先さき進んでいくティエリアの後を、ニールが追う。 「ちょっと待てってば!」 「嫌だ」 本当にティエリアは先へと進んでいく。そこで誰かとぶつかってよろけた。 「危ない」 倒れそうになるのを、ニールに腕を掴まれて、なんとか姿勢を直す。 「この手はなんだ」 ニールは急に立ち上がったティエリアの胸に手をあてていた。 「い、いやまじこれは事故!」 手が動く。モミモミ。 「あ、けっこう胸ある」 ピキ。 ティエリアの額に血管が浮く。 「万死に値する!死ね!」 バッチーン!ビターン! 往復ビンタを決めて、ティエリアは去っていった。 「なんつー気の強い・・・往復ビンタされたの初めて、ま、されても仕方ないけど」 ニールはぽかんとしてから、それから去っていくティエリアの後を追うために走り出した。 NEXT |